セルティックからステップアップできない? 古橋亨梧ら日本人選手が置かれた“リアルな移籍事情”「欧州では知れ渡っている」

セルティックで得点量産中のFW古橋亨梧【写真:Getty Images】
セルティックで得点量産中のFW古橋亨梧【写真:Getty Images】

【識者コラム】セルティックの移籍事情をモラス雅輝氏が解説「違約金は高く設定されている」

 スコットランドリーグで首位を走るセルティックを牽引する古橋享梧と旗手玲央がワールドカップ(W杯)に続いて日本代表から漏れたことで、クラブのレベルの問題に注目が集まっている。

 セルティックはイングランドに先駆けて、英国で最初に欧州制覇を成し遂げた伝統のあるクラブだ。しかしスコットランド内ではレンジャーズと人気を二分する名門なので、当然歴史に裏づけされた誇りを持ち十分に裕福でもある。そのため中村俊輔に始まり、現在も前述の2人以外にも前田大然らが中核として活躍しているが、まだ明らかなステップアップを果たした選手はいない。

 ではなぜセルティックで結果を残しても、なかなかプレミアリーグなどへの道が開けていかないのか。このへんの事情を、欧州のクラブで20年間以上も活動を続け、現在はオーストリア2部で首位を走るザンクト・ペルデンのテクニカル・ディレクターを務めるモラス雅輝氏に聞いた。

「セルティックは、伝統を持つ素晴らしいクラブで、常にリーグを制しUEFAチャンピオンズリーグ(CL)に出場し続けることをステイタスにしています。つまり選手を売って利益を得るより、勝ち続けることを宿命づけられており、当然違約金は高く設定されている。だからセルティックへの移籍そのものは素晴らしいことですが、欧州では次のステップにつなげるのが難しいクラブとして知れ渡っています」

 モラス氏は欧州全域のクラブとのネットワークを築いており、こうした移籍事情には精通している。

「例えばザルツブルクを筆頭とするオーストリアのクラブとは、真逆の哲学を持っています。オーストリアはリーグの経営規模がJリーグとほぼ同じなのですが、20歳代前半で結果を残した選手は、どんどんステップアップをさせていこうというスタンスを貫いています。これはドイツにも共通していますが、概してクラブは最初から違約金を吹っかけるようなことはしません。移籍交渉も常識的な話し合いにより短時間で済ませる傾向があります。オーストリアでは全体の23%の選手たちが国外に移籍していきます。逆にどんどん出て行ってくれないと、次の世代が出て来られませんからね」

Jクラブからセルティック移籍は“成功”だが…「目的に応じて国やクラブを選択する必要がある」

 Jクラブからセルティックへの移籍は、条件面も含めて成功を意味する。だがさらにステップアップを望むなら、オーストリア、オランダ、ベルギー、スイスなどのクラブと同じように捉えるわけにはいかない。

 モラス氏は「欧州へ進出するなら、目的に応じて国やクラブを選択する必要がある」と力説する。

「よく日本の選手たちが『年齢的にこれがラストチャンスだと思って』と話していますが、それはどこを目指すかによって違ってきます。20歳代半ばではステップアップリーグに移籍していくには遅すぎますが、即戦力だけが欲しいトルコ、ギリシャ、キプロスなどのクラブなら決して遅くはない。実際に現在いくつかのトルコのクラブが日本代表選手を欲しがっています。またドイツでも過去に原口元気や内田篤人を獲得したウニオン・ベルリンなどは、意図的に20歳代後半から30歳代のベテランをほとんど違約金なしで獲得し続けて、今シーズンはしっかりと上位につけています」

 セルティックと、オランダ、ベルギー、オーストリア、スイスなどのステップアップリーグでは、明らかに平均年齢も異なる。またセルティックが獲得してきた日本人選手たちは、いずれも成熟期に差し掛かっていた。それだけにセルティックが断り切れないようなオファーを引き出すには、並大抵の活躍では難しいということになる。

(加部 究 / Kiwamu Kabe)

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加部 究

かべ・きわむ/1958年生まれ。大学卒業後、スポーツ新聞社に勤めるが86年メキシコW杯を観戦するために3年で退社。その後フリーランスのスポーツライターに転身し、W杯は7回現地取材した。育成年代にも造詣が深く、多くの指導者と親交が深い。指導者、選手ら約150人にロングインタビューを実施。長男は元Jリーガーの加部未蘭。最近選手主体のボトムアップ方式で部活に取り組む堀越高校サッカー部のノンフィクション『毎日の部活が高校生活一番の宝物』(竹書房)を上梓。『日本サッカー戦記~青銅の時代から新世紀へ』『サッカー通訳戦記』『それでも「美談」になる高校サッカーの非常識』(いずれもカンゼン)、『大和魂のモダンサッカー』『サッカー移民』(ともに双葉社)、『祝祭』(小学館文庫)など著書多数。

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