“横内ジュビロ”の挑戦は「なかなかない前例」 森保一監督が語る元代表コーチ→J指揮官誕生の意義
【識者コラム】元代表コーチ横内昭展氏、磐田監督への挑戦を森保監督はどう見たか
J2ジュビロ磐田は今季より東京五輪やカタール・ワールドカップ(W杯)で日本代表コーチを務めた横内昭展氏を新監督として招聘。キャンプでは攻守の切替えや球際といったベーシックな意識を引き上げることを徹底しながら、開幕戦から試合を重ねるなかで、徐々にチームとしての形を成そうとしている。
「個人戦術のベースがなければ、チーム戦術も積み上がっていかない」。それが横内監督の信念だ。ここまでのリーグ戦5試合で色濃く感じられるのが、個性を輝かせられるチームであること。そして相手に立ち向かっていく前向きな姿勢だ。横内監督は「自分たちが何をしたいかは忘れないようにしなきゃいけないと思っています。それを選手も意識してここまでやってくれてるので、そこは貫いていきたい」と強調する。
そうした指揮官の意識は日本代表がカタールW杯に向かうプロセスでも大きな助けになったようだ。日本代表をベスト16に導き、今月下旬から第2次政権を迎える森保一監督は「すごく今のチーム作りには横さんがやってきたことは大きく影響しているかなと思いますので、大切にしていきたい」と語る。
「横内さんとやってきたことは、いつも私自身が判断に揺れている時に、『こうじゃないのか』という覚悟を持った進言、提言をしてくれるので、すごく助かっていました。選手の招集についても、伸びてきている芽を摘んではいけないと常に話してくれました」
振り返ると、日本代表にとって大きな転機があった。本大会から遡ること半年前の6月シリーズ。森保監督は「チュニジアとやるまでの3失点は全部ビルドアップだったんです。ビルドアップを引っ掛けてという。でも、我々がそこを捨ててノーリスクで戦えば、相手にボールがより高い確率で多く渡って、やられることが増えるんだというのをずっと言い続けてくれたことで、勇気をもらいました」と振り返る。
「チームの進むべき方向に、痛い思いをすることがあっても、そこは覚悟してやらなければいけないと。未来の成功のためには、『今これをやらなければいけないんじゃないのか』ということは相当、勇気を持って話してくれていました」
そうした前向きな姿勢、そして何より世界で戦うことでしかえられない国際基準の目というものは磐田の選手にも少しずつ浸透してきている。
例えば19歳のプロ2年目、MF古川陽介は2-2と引き分けた清水エスパルスとの“静岡ダービー”で出番なく終わるなど、ここまで決して重用されているわけではない。しかし、腐らず自分の課題に向き合うことが何より成長につながるという自覚を彼の言葉からも感じさせる。
「横さんは代表選手を見てきていて基準を知ってるので。そこを求めてると思いますし、守備の強度も今までと違った言われ方をします。それでも結果に忠実というか、起きた現象に対して指示する監督なので『こういうことができるよ』って示せれば、すぐに評価してもらえるのかなという印象です」
横内監督は磐田を率いるなかで「クラブから代表選手を輩出するというのはクラブにとっても宝だと思います。ぜひ、そういう選手が1人でも多く出てきてほしい」と語る。もちろん、そのためにはJ1に昇格することが大前提になってくるはずだが、今いる選手にはその資質があると考えているようだ。
「横内さんが我慢してくれて、支えてくれていた」
「本当に監督をやれる方だと思っていましたし、サンフレッチェ広島の時から私が監督で、横内さんがコーチとして2012年からやってきたなかで、めちゃくちゃよく我慢してくれて、支えてくれていたと思います(笑)。本当に感謝の気持ちでいっぱいです」
表情を緩めながらそう語った森保監督。J3のFC岐阜を率いる上野優作監督を含め、「なかなかない前例を2人は作ってくれたなと。それは我々が代表活動のなかでやってきたことを見ていただいて、評価してくださったことだと思います」と意義を示しつつ、最後にこうエールを送った。
「これまでやってきたことは世界の舞台でも戦っていける、勝っていけるということを示していたと思いますので。自信を持って、勇気を持って戦ってほしいなと思います。もう、めちゃめちゃ応援しています!(笑)」
(河治良幸 / Yoshiyuki Kawaji)
河治良幸
かわじ・よしゆき/東京都出身。「エル・ゴラッソ」創刊に携わり、日本代表を担当。著書は「サッカーの見方が180度変わる データ進化論」(ソル・メディア)など。NHK「ミラクルボディー」の「スペイン代表 世界最強の“天才脳”」を監修。タグマのウェブマガジン「サッカーの羅針盤」を運営。国内外で取材を続けながら、プレー分析を軸にサッカーの潮流を見守る。