「ぜひ行くべきだ」 元なでしこ高倉監督、中国での新チャレンジを後押しした岡田監督の助言
【特別インタビュー】岡田監督から「絶対にチャレンジしたほうがいい」とアドバイス
日本のサッカーファンのみなさま、こんにちは。中国サッカー界で仕事をしています久保田嶺です。今回は、前なでしこジャパン(日本女子代表)監督で今年から中国女子リーグの上海農商銀行を率いる高倉麻子監督に、中国での生活や日中女子サッカーの違い、また7月に開催が迫る女子ワールドカップ(W杯)についての展望を聞きました。
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――今季リーグ開幕戦から3連勝、おめでとうございます。高倉監督ご自身のこと、中国女子サッカーについて伺いたいと思いますが、まず中国リーグに来たきっかけを教えてください。
「日本女子代表監督の仕事を終えてから、ぼんやりと次は海外に挑戦したいと思っていました。そんななか、中国の代理人さんから、上海チームからオファーがあるという話をいただきました。正直最初は中国リーグのことは全く想像していなかったし、想定外だったので驚きでした」
――上海チームから打診が来てから、すぐにオファーを受けたのですか?
「いえ、しばらく悩みました。当時は特にコロナのロックダウン政策など非常に中国は難しい状況と報道されていたので。そして何人かに相談するなかで、岡田武史さん(2012年~13年に中国浙江FC監督)にも話を聞きました」
――岡田氏からはどんなアドバイスを?
「いいじゃないか、ぜひ行くべきだ、と。でも、本当に大変だぞ、と。でも、現状は岡田さんがおっしゃっていたような苦労にはまだ直面していないので、これからなのかなと思います(笑)」
――最終的に中国に来る決断をした最大の理由は?
「やはりチームの熱意です。この上海チームをもっと良くしていきたいというビジョンをクラブから話していただき、私もここで一緒にチャレンジがしたいと最終的に決断しました」
「中国女子サッカーは状況判断能力が課題」
――実際に中国に来てみて、難しい面はありますか?
「周りに友人や知り合いがいないというのは、寂しく感じる時もあります。でも、逆にサッカーに集中できる環境がありますし、中華料理も美味しいので楽しく生活ができています」
――特に、好きになった中華料理はありますか?
「小籠包が好きと1回言ったら、小籠包のお店ばかり連れて行ってくれるようになりました(笑)。もちろん好きですが、ほかにも上海蟹や炒飯もよく食べます。そして火鍋が美味しいですね」
――辛いものもお好きなのですね。
「周りのスタッフは食べられなかったり、お腹を下す人も多いのですが、私は大好きです。重慶への遠征では、本場の火鍋を美味しくいただきました」
――サッカーについても訊かせてください。上海チームの指揮を執られてから、日本人選手と中国人選手の技術的な面で、大きな違いはあるでしょうか。
「中国人選手も止める蹴るといった基本的な技術は高く、また身体的な強さ、高さでは日本人選手より優れていることが多いと思います。しかし、状況判断、考えてプレーする部分はトレーニングが足りていないと感じます」
――“足りていない”部分をより具体的に言うと?
「中国人選手は攻守においてロジックがあまりなく、そのまま持っている素でプレーする選手が多いと感じます。考えてプレーする習慣がまだまだ足りていない。育成の時にきちんとサッカーを教えられていないのだと思います。センスのある選手はいるし、身体も強いので、そこにプラスしてサッカーの原理原則を理解したうえで状況判断、考える力を伸ばすことができると、もう一段上に行けると思います」
――メンタル面や考え方で日中に違いはありますか?
「とにかく中国人選手は純粋だと感じています。私が主任してまだ数か月というのもあると思いますが、例えば私が話したことに対して、すぐに反応してプレーが変化します。日本人選手がそうでないという訳ではないのですが、より強く感じます」
――練習施設などの環境面での違いはいかがでしょうか。
「私の上海チームは中国でも恵まれているほうだと思いますが、環境は申し分ないです。普段の練習場は上海市が管理しているスポーツ総合施設なのですが、同じ敷地内に例えばオリンピックに出るバレーボール選手たちや水泳選手たちがいて、整った環境が用意されています」
――WEリーグのチームと比べても環境は良いですか?
「WEリーグを含めてもトップレベルだと思います。上海の選手たちはその施設内の寮で生活しており、サッカーに集中できます。もちろん寮なのでほかの場所に行きづらいなど難しい面もあるかもしれませんが、それでも全体としてとてもいい環境なのは間違いありません」
森保監督には「確固たるサッカー観がある」
――中国ではワールドカップ(W杯)やプレミアリーグで活躍する三笘薫選手の影響も大きく、日本サッカー人気が高いですが、高倉監督も実感されていますか?
「はい。私の周りでも、特に中国男子サッカーは上手くいっていない不満があるようで、『日本男子サッカーがうらやましい』『応援しています』などの声を聞く時があります」
――森保一監督は続投となり、第2次政権に突入しましたが、同じ日本代表監督経験者として森保監督の凄さはどのように考えていますか。
「実はポイチ(森保監督)とは同級生でよく知った仲なのですが、彼の何事にも動じないところは凄いと思っています。それと自分の確固たるサッカー観があります。2期目も彼らしく成功に向けてやっていくと思います」
――最後に、7月に開催される女子W杯に日本代表も参加しますが、どのように見ているでしょうか。
「もちろん成功を掴むチャンスはあると思います。何を持って成功と言えるのか難しいところですが、技術が高い選手は揃っていると思います。今はヨーロッパの国々が強くなっている状況で、そのなかでなでしこジャパンの特徴として何で戦うのかを明確にし、とにかく自信を持って大会に望んでほしいと思っています」
[プロフィール]
高倉麻子(たかくら・あさこ)/1968年4月19日生まれ、福島県出身。現役時代は読売日本サッカークラブ・ベレーザ(現日テレ・ベレーザ)で長年プレーし、日本女子代表としても79試合に出場。年代別代表の指導者を経て、2016年4月からなでしこジャパン監督を務めた。19年の女子W杯はベスト16、21年夏の東京五輪はベスト8で、21年8月末の任期満了を持って代表監督を退任したより。22年12月、中国女子スーパーリーグに所属する上海盛麗足球倶楽部を率いる。
(久保田嶺 / Rei Kubota)
久保田嶺
1991年生まれ、埼玉県出身。「Rouse Shanghai Co.,Ltd.」代表。日系企業の中国インバウンド事業やマーケティング、中国サッカー選手/指導者のマネージメントを手掛ける。自身の中国SNSフォロワー数も40万人と中国サッカー界で一番有名な日本人としても活躍。日本へ中国サッカー情報を発信する。