“鹿島スタイル”に明るい兆し J1王者との一戦で見えた「強み」…岩政体制に漂う期待感
横浜FMとの一戦で1-2敗戦も、「相手を見てサッカーをする」狙いが具現化
J1リーグ第5節、日産スタジアムで行われた注目の一戦はホームの横浜F・マリノスがDF松原健のスーパーゴールと相手のオウンゴールで2点を奪い、鹿島アントラーズの反撃を1点に凌いで勝利した。これで横浜FMは勝ち点10で3位に浮上、鹿島は8位に後退した。
鹿島にとっては、後半のアディショナルタイムにはMFディエゴ・ピトゥカが2枚目の警告で退場になる後味の悪さはあったが、岩政大樹監督が川崎フロンターレと並ぶ“2強”と認める横浜FMとの一戦を振り返ると、前向きな要素の多い試合だったのも確かだ。
指揮官は「自分たちの時間と相手の時間と、どっちがボールを持っていてもゲームをコントロールすることはできていましたし、どちらに点が入ってもおかしくない展開でした」と語った。終盤に逆転を許した第2節の川崎戦に比べると、自分たちから意図的にボールを運ぶことができたと分析した。
そうした状況を作りながら1つ目の失点は松原のスーパーゴールだったとはいえ、スローインからの攻撃に対するスライドと寄せに甘さが出た結果ではある。2人の選手を交代した直後に喫した2失点目は右サイドバックのDF常本佳吾によるクリアミスがオウンゴールになったが、セカンドボールを立て続けに拾われて、自陣に押し込まれた状況だった。
見方を変えれば原因ははっきりしているので、方向性を変えないなかで1つ1つ出てくる課題を改善していければ、完成度は上がってくるだろう。鹿島の場合、横浜FMのように1つの戦い方を突き詰めるのではなく、システムを含めて3つ、4つぐらいベースを準備しておいて、相手によって臨機応変に繰り出していく。
それをすべてハイレベルに繰り出せてこそ“鹿島スタイル”は完成度を増していくはずで、キャンプから植え付けてきたうしろからのビルドアップも手段をレベルアップさせただけにすぎないのだ。横浜FM戦では相手の裏を狙っていくことでロングボールが増える展開にはなったが、それも付け焼き刃ではなくチームとして準備したもので、選手たちにストレスは感じられない。
欧州から鹿島に復帰したDF植田直通は「プレシーズンから色々やってきたものがやれてるのかなと。相手に応じて自分たちのフォーメーションを変えることもできますし、試合のなかで変えることもできる。そこは自分たちの強みだと思ってます」と語る。
その植田も「後半から出てくる選手がアクセントになって、かなり勢いをもたらしてくれる」と言うように、交代選手が効果をもたらせるようになってきたのも大きい。2失点目は2人を投入した直後だったが、さらに2人入ったあとに、彼ら4人が絡む形でFW鈴木優磨のゴールが生まれた。
“サッカーは22人でやるもの”や、”相手を見てサッカーをする”というワードは岩政監督が鹿島を率いる前から口にしていたが、それを監督として具現化し始めていることを実感できる試合だった。試合前には「僕たちはまだ手探りですからね。かわいい赤ちゃんです(笑)」と語っていた岩政監督も、もう少し成長を実感できた試合ではないか。
無論、チームが成長過程と言っても、鹿島は悠長に成長を見守ってくれるクラブではない。それでも試合後にはゴール裏から応援のチャントが鳴り響き、選手たちを後押しした。代表ウィーク中に行われるルヴァン杯のアルビレックス新潟戦、さらに次節(4月1日)のサンフレッチェ広島戦は内容だけでなく、結果で応えていけるかに注目したい。
(河治良幸 / Yoshiyuki Kawaji)
河治良幸
かわじ・よしゆき/東京都出身。「エル・ゴラッソ」創刊に携わり、日本代表を担当。著書は「サッカーの見方が180度変わる データ進化論」(ソル・メディア)など。NHK「ミラクルボディー」の「スペイン代表 世界最強の“天才脳”」を監修。タグマのウェブマガジン「サッカーの羅針盤」を運営。国内外で取材を続けながら、プレー分析を軸にサッカーの潮流を見守る。