堂安律の自負「それがピッチに立つ理由」 ユーベ戦敗戦も指揮官が賛辞「所狭しと動いてくれた」【現地発コラム】
ユベントスとのELラウンド16第1戦、戦いぶりが問題視されていたフライブルク
日本代表MF堂安律が所属するドイツ1部フライブルクは、イタリアの名門クラブであるユベントス相手にUEFAヨーロッパリーグ(EL)ラウンド16第1戦を0-1で落としていた。この試合だけではなく、直近のブンデスリーガでも対戦相手に自分たちの攻撃の狙いを研究され、思うようにチャンスを作り出せない戦いぶりが問題視されていた。
ブンデスリーガ第22節、ホームにレバークーゼンを迎えた一戦を1-1の引き分けで終えたあと、MFニコラス・ヘフラーが地元記者に囲まれながら、自分たちがこれから取り組むべき点について話していたのを思い出す。
「ここ最近自分たちがトレーニングから取り組んでいるテーマだ。もっと試合の流れのなかからゴールに迫って、得点を奪えるようになるために、攻撃面でのステップアップを果たさないといけない」
自陣で辛抱強く守備組織を固めてくる相手に対して、攻撃の糸口を見つけ出すのは簡単ではない。ボールを我慢強く動かしながら、スペースをタイミング良く突いて攻略したいところだが、フライブルクが狙うところを相手も抑えにくるため、そこでボールを失い、カウンターへ持ち込まれる場面が少なくない。ユベントスとの第1戦でもそうしたシーンが散見された。
ユベントスとの第2戦、相手に揺さぶりをかける動きを何度も見せた堂安
3月16日にホームでユベントスを迎え撃ったELラウンド16第2戦では、点を取れなければ敗退が決まるなか、いかに自分たちでチャンスを作り出せるかが大きなポイントとなっていた。
立ち上がりからフライブルクが好プレーを連続で披露。最初のシュートチャンスを掴んだのは堂安だった。オーストリア代表FWミヒャエル・グレゴリッチのスルーパスで上手く抜け出すと、GKの頭上を抜くループシュートを狙う。これは枠を外したが、意図的な好チャンスの創出がチームにポジティブな影響をもたらす。
先勝しているユベントスは、5バックでじっくりと対応を試みる一方、そこに揺さぶりをかける動きを連続で見せていたのが堂安だった。相手DFの背中を突くタイミングのいい走り込みで、DFからのロビングボールを引き出していく。
ホームでのELグループステージ第3節ナント戦(2-0)後、「監督からは背後を狙えとは口酸っぱく言われているので、足もとで受けるのは自分の特徴ですけど、背後に行って周りの選手のスペースを空けるとか、そこは意識している」と話していた堂安。この日もワイドに開いてパスをもらうだけではなく、センターのスペースに入り込んでボールを収め、走り出すことでチームとしての動きに連続性を生み出していた。
堂安へパスが渡った時、指揮官が拍手も「非常に動きのいい堂安を起用した」
ユベントスの圧力のかけ方は激しい。少しでもボールにアタックできる隙を与えると一気に距離を詰めて奪い取ってしまう。第1戦のフライブルクはそこに苦しんだ。キープしたい時に収められないと苦しい。その点、第2戦は堂安のところでボールを一度キープできていたのは大きい。
「それが自分がピッチに立つ理由ではあるので。セカンドレグでそれを見せれたのは良かったです」(堂安)
時折カウンターで危ない場面を作られたものの、フライブルクは自分たちのイメージどおりに試合を進め、得点の匂いを漂わせていた。堂安も同意する。
「ボールもこぼれ球とかが来てましたし、ボールキープする場面でも良さを出せていたので、それほどネガティブな感じではなく、いい緊張感で、いいフィーリングで試合に入れました」
フライブルクのクリスティアン・シュトライヒ監督もそんな前線の選手の働きぶりを褒めていた。タイミング良くスペースへ走る堂安へパスが渡った時、コーチングゾーンから大きな拍手を送るシーンも見られた。
「正しい戦い方だった。勇敢にプレスにいった。前の3人は素晴らしい仕事をしてくれた。タフなプレーができる(ルーカス・)ヘーラーと、非常に動きのいい堂安を起用した。堂安は所狭しと動いてくれた」(シュトライヒ監督)
次戦に向けて気持ちを切り替える「すごい残念。でも下を向いてる時間はない」
それでも、フライブルクの勝利には結び付かなかった。前半終了間際、DFマヌエル・グルデのシュートブロック時にボールが腕に当たったプレーがペナルティーキック(PK)とイエローカードと判定される。これが2枚目のイエローカードだったためにグルデは退場処分となり、フライブルクは後半45分を1人少ない状況で戦うこととなった。その後はヘディングに強いグレゴリッチへのロングパスを多用する展開となり、攻撃でボールに絡む頻度が減った堂安は後半17分にハンガリー代表MFロランド・サライと交代した。
最後までゴールを目指したフライブルクだったが、アディショナルタイム5分にカウンターからイタリア代表FWフェデリコ・キエーザにゴールを許して0-2で敗戦。2戦合計0-3でヨーロッパの舞台から去ることになった。
内容は悪くなかっただけに、失望は確かにある。だが、シーズンはまだ残っている。リーグ戦では現在5位につけ、DFBポカール(ドイツカップ)でも準々決勝まで勝ち残っている。
「結果につながらなかったのはすごい残念です。でも下を向いてる時間はないので切り替えて週末に向けてやりたいと思います」
そうきっぱりと話した堂安。シュトライヒ監督も似たような思いを記者会見で口にしていた。
「日曜日(現地時間3月19日)にはマインツ戦だ。今日のユーベ戦でものすごい労力を要した。それでも我々はすべての力を結集して、マインツのようなハードなチーム相手でも、最大限のものを取りにいく。この試合をチームとして乗り切ることができたら、本当に凄い」
リーグは残すところ10試合。来季のEL出場権を再び獲得するため、堂安もフライブルクも最後まで走り続ける。
(中野吉之伴 / Kichinosuke Nakano)
中野吉之伴
なかの・きちのすけ/1977年生まれ。ドイツ・フライブルク在住のサッカー育成指導者。グラスルーツの育成エキスパートになるべく渡独し、ドイツサッカー協会公認A級ライセンス(UEFA-Aレベル)所得。SCフライブルクU-15で研修を積み、地域に密着したドイツのさまざまなサッカークラブで20年以上の育成・指導者キャリアを持つ。育成・指導者関連の記事を多数執筆するほか、ブンデスリーガをはじめ周辺諸国への現地取材を精力的に行っている。著書『ドイツの子どもは審判なしでサッカーをする』(ナツメ社)、『世界王者ドイツ年代別トレーニングの教科書』(カンゼン)。