新潟の遅咲きアタッカー・伊藤涼太郎は久保建英と似たケース? “日本的10番”タイプが埋没しなかった理由
【識者コラム】J1昇格の新潟で素晴らしいテクニックと瞬間的なアイデアの秀逸さを発揮
J1リーグ第4節、アルビレックス新潟が1-0で川崎フロンターレに勝利した。今季J2から昇格したばかりだが、現在3位と好調を維持している。川崎戦は押されながらも随所に川崎のお株を奪うようなパスワークをみせていたが、その中心にいたのが決勝点をあげた伊藤涼太郎だ。
開幕以来、存在感をみせつけている新潟のトップ下。25歳とやや遅咲きながら、素晴らしいテクニックと瞬間的なアイデアの秀逸さで貢献。背番号は「13」だが、典型的な「10番」タイプといえる。身長175センチメートル、体型も細身。ある意味、日本らしい「10番」だろう。
日本には小柄で俊敏でクリエイティブなアタッカーが多い。日本代表にも歴代このタイプがいて、古くは1968年メキシコ五輪の宮本輝紀、主に80年代のスーパースターだった木村和司、その後も中田英寿、小野伸二、小笠原満男、香川真司といった名手を生み出してきた。日本だけの傾向ではないのだが、小柄で器用な選手の系譜があって、現在でもこのタイプはかなり多いと思う。
一方、ハードワークにともなうフィジカルな能力も要求されるに従って、このタイプはなかなか能力を発揮できなくなっている面もある。球際に弱かったり、守備ができなかったり、そういう理由で活躍の場を与えられない技巧派がたくさんいる。伊藤も浦和レッズ、水戸ホーリーホック、大分トリニータでプレーしながら、なかなかレギュラーポジションを確保できなかった。
どんな選手もそうかもしれないが、“日本的10番”はとくにチームとの相性に左右されやすい。新潟と伊藤は相性が良かった。今季、レアル・ソシエダで活躍している久保建英と似たケースといえる。パスワークを重視するプレースタイルのチームの中で、持ち前の技術やアイデアが開花した。相性の良くないチームでプレーしていたら、伊藤も久保も埋没していたかもしれない。
J2のときから磨きをかけてきた新潟のパスワークはJ1でも十分通用している。パスの距離感が短めなのは川崎と似ていて、自分たちが正確にやれる距離感でプレーしているのが上手くいっている要因の1つだろう。また、相手選手の中間ポジションに受け手が顔を出すタイミングが良く、そこへパスをつなぐことで誰がマークするかの判断を一瞬遅らせ、その繰り返しで隙間を作っていくのが上手い。
大きく速くやろうとして雑になるのではなく、正確さを担保できる距離感でプレーしている。同じタイプの川崎にはさすがに押し込まれる時間が長くなっていたものの、そこから相手のプレスをはがして前進できていた。川崎が見せる狭い距離感でのパスワークは、失った後もプレスしやすい。川崎より狭く回せるチームはないので効果的だったのだが、新潟はそこをかいくぐれたのだから今までのJ1にはなかったレベルといえるかもしれない。そのスモールフットボールの中心にいるのが伊藤であり、伊藤がいるから成立していると同時に、このサッカーだから伊藤が活きている。
だとすると、日本的10番タイプを活かせる新潟は今後も埋もれている人材を取り込みやすいのではないか。日本サッカーの人材活用という点でも面白いチームかもしれない。
(西部謙司 / Kenji Nishibe)
西部謙司
にしべ・けんじ/1962年生まれ、東京都出身。サッカー専門誌の編集記者を経て、2002年からフリーランスとして活動。1995年から98年までパリに在住し、欧州サッカーを中心に取材した。戦術分析に定評があり、『サッカー日本代表戦術アナライズ』(カンゼン)、『戦術リストランテ』(ソル・メディア)など著書多数。またJリーグでは長年ジェフユナイテッド千葉を追っており、ウェブマガジン『犬の生活SUPER』(https://www.targma.jp/nishibemag/)を配信している。