名古屋ユンカーが移籍で見つけた新たに輝ける場所 同僚からの信頼でさらなる飛躍へ
【カメラマンの目】柏戦でのデュエルへの判定に笑顔でアピールする姿に感じた余裕
3月12日に行われたJ1リーグ第4節の柏レイソル対名古屋グランパス戦。名古屋は浦和レッズから期限付きで獲得した新加入のキャスパー・ユンカーが躍動した。チームの得点源として期待が懸かるデンマーク人FWは前半41分に先制ゴールをマークし、その後もチーム2得点目となったFW永井謙佑のゴールをアシスト。前線で抜群の存在感を発揮し、3-0の勝利に貢献した。
柏戦はユンカーにとって、1ゴール1アシストとストライカーとしての本領を発揮した試合となったが、実は得点やアシストとは別の場面で現在の彼を象徴するような1枚を写真に切り取ることができた。その場面への経緯は、ユンカーと柏の大型DF立田悠悟がルーズボールをコンタクトしようとしたところから始まる。
ともにボールを支配しようともつれるように争ったプレーのあと、主審のホイッスルが鳴る。主審はすかさずユンカーのファウルを宣告した。
しかし、ユンカーからすれば動きを封じられるようにユニフォームの胸元を立田に掴まれており、下された判定に対してファウルを犯したのは自分のほうではないと主審にアピールする。
ユンカーは決して語気を荒げて抗議をしたわけではない。何より笑顔を見せているのだから。このゴールとはまったく関係のない場面の写真が、現在のユンカーの心境を表していると感じたのだ。
浦和時代、加入当初のKユンカーはしなやかなプレーを武器にストライカーとして輝きを放っていた。しかし、リカルド・ロドリゲス監督のスタイルがチームに浸透していくと、指揮官の目指す戦術において絶対的に必要な選手ではなくなり、怪我もあって次第に出場の機会を減らす不遇の時を経験することになる。
浦和は今シーズン監督と主要コーチ陣を一新させたが、ユンカーが下した決断は新天地でのプレーだった。名古屋も昨シーズンの課題として決定力のあるFWを欲しており、ここに望まれての移籍が成立。ユンカーは早くも前線における中心選手として信頼を勝ち獲ることに成功している。
ユンカーに感じられる心の余裕と充実感
その証拠として、周囲の選手たちはユンカーのゴール決定力を信じ、彼の動きを常に視線の先に捉え、トップスピードに乗った飛び出しに合わせたスルーパスや、キープ力に賭けたロングハイボールなどさまざまな種類のパスを供給し続けた。
たとえボールの出し手とユンカーの意思の疎通がならずパスが通らなかったとしても、受け手の彼は自分を信頼してくれているという思いからか、苛立ちを露わにするようなことはなかった。信頼関係が築かれていることによって、心に余裕が生まれたユンカーの表情からは充実感が色濃く表れていた。
自信で武装されたハートは柏守備陣とのバトルでも怖気づくことなく、むしろ激しさを楽しんでいるようにも見え、さらにダイナミックなプレーを生み出す原動力となっていた。果敢にドリブルで仕掛け、豪快にミドルシュートを放ったかと思うと、前線へと上がって来た味方にパスを出しチャンスを演出。攻撃のオールラウンダーとして精彩なプレーをピッチで創り出していた。
心が充実しているからこそ、主審へのアピールも刺々しいものにはならず、笑顔が覗いたのだと思う。主審の中村太氏も同じく笑顔なのだから、自分の判定に強く抗議を受けたとは感じていないはずだ。
指揮官、そして仲間から信頼され自分の居場所と存在意義を見つけた今年のユンカーは昨年の彼とはひと味違う。シーズンを通して名古屋を牽引する存在になりそうであり、なによりサッカーをすることに充実感をみなぎらせ楽しそうにプレーしているユンカーの姿がこれから見られそうだ。
(徳原隆元 / Takamoto Tokuhara)
徳原隆元
とくはら・たかもと/1970年東京生まれ。22歳の時からブラジルサッカーを取材。現在も日本国内、海外で“サッカーのある場面”を撮影している。好きな選手はミッシェル・プラティニとパウロ・ロベルト・ファルカン。1980年代の単純にサッカーの上手い選手が当たり前のようにピッチで輝けた時代のサッカーが今も好き。日本スポーツプレス協会、国際スポーツプレス協会会員。