フライブルク堂安律、“思わぬ離脱”の舞台裏 指揮官が吐露「彼が必要不可欠だった。だが…」【現地発コラム】
レバークーゼン戦、スタメン出場の堂安が前半25分に途中交代
「堂安のコンディションが通常どおりだったら、全く違う試合展開になっていたはず」と指揮官に思わせるほど、日本代表MF堂安律の存在感はフライブルクで大きくなっている。
第22節レバークーゼン戦(1-1)でスタメン出場した堂安は、体調不良のため前半25分の段階で途中交代となった。試合開始から動きがどうも重たい。15分すぎには地面に座り込み、交替のジェスチャー。試合前のアップ時にアシスタントコーチに何やら話をしていたし、最後のシュート練習の時も、とてもゆっくりプレーしていたのが気になっていたのだが、試合後の記者会見でクリスティアン・シュトライヒ監督が「体調不良が交代の理由だった」ことを明かしている。
堂安離脱の影響はどれだけのものがあったのか。ブンデスリーガでは試合後に両監督の記者会見が行われ、一通りのやり取りが終わったあと、地元メディアへのインタビューに対応してくれることがある。
レバークーゼン戦後では地元記者の1人が、「前半途中までレバークーゼンの攻撃を上手く阻止することができなかったために4バックから3バックへシステム変更したが、試合開始からそのやり方でいくプランはなかったのか?」という質問に対して、フライブルクのシュトライヒ監督がうなずきながら、その理由について詳細を明かしてくれた。
「相手が3バックでくることは分かっていた。それに対して自分たちのプランというのは、2トップ(ミヒャエル・グレゴリッチ、ルーカス・ヘーラー)を起用しながら、相手のビルドアップをインテンシティー高く連続でスライドしながら潰していくことだった。上手くいけば自分たちはオフェンス時に数的有利を作り出すことができる。そして、そのために重要だったのがリツだ。パワーと運動量でさまざまなタスクをこなしてくれる彼が攻守に必要不可欠だった。だが、残念ながら試合開始前に、体調不良を訴えてきたんだ。そのままスタートしてみたが、やはり調子が良くない。だがそうなると厳しい」
体調不良から復帰の堂安、大きな役割を担うべき存在として寄せられる期待
この試合では堂安の途中交代に加えて、キャプテンでドイツ代表の左サイドバック(SB)クリスティアン・ギュンターが出場停止で欠場したこともチームに大きく影響した。本来右SBのルーカス・キューブラーが左に回り、センターバックもこなせるキリアン・シルディリアが右SBでスタート。試合途中のシステム変更でシルディリアが3バックの右となり、右ウイングバック(WB)の位置には堂安と交代出場となったハンガリー代表MFローランド・シャーライが入ったが、早々にイエローカードをもらってしまう。
相手はスピード豊富な攻撃陣を誇るレバークーゼンだ。シャーライも攻撃的なポジションの選手のため、このままでは同サイドから押し切られてしまうのは目に見えている。そこでシュトライヒ監督は「献身的なプレーならチームナンバーワン」と常に絶大な信頼を寄せているFWヘーラーを右WBへ配置転向した。
守備でのバランスはこれでかなり改善されたが、その分、攻撃では普段どおりにはいかない。セットプレーを中心にいくつか惜しいチャンスは作ったが、1-1の引き分け以上には持ち込めなかった。堂安やギュンターといった主力選手の存在価値の大きさを改めて感じられた試合と言えるかもしれない。
第23節で日本代表DF板倉滉が所属するボルシアMGとアウェーで対戦。フライブルクはギュンターがスタメン復帰し、堂安は途中出場を果たした。ただチーム全体として満足のいくパフォーマンスとはならず、攻撃面ではなかなかいい形を作り出せないまま0-0ドローに終わった。
シュトライヒ監督は試合後、「特に前半はプレーにスピードがなかった。プレー面で言えば90分のうち20~25分くらいだけ満足がいくものだった」と振り返っていた。第23節終了時で5位につけているフライブルクだけに、対戦相手も対策を練ってくる。「守備を固める相手にどのようにチャンスを作り出すかは、チーム内でも大きなテーマになっている」とニコラス・へフラーが明かしていた。そして、そのための大きな役割を担うべき存在として大きな期待を懸けられているのが堂安なのだ。
現地時間3月9日に行われたユベントス(イタリア)とのUEFAヨーロッパリーグ(EL)決勝トーナメント1回戦第1戦は0-1で惜敗したが、堂安のさらなる活躍に注目が集まる。
(中野吉之伴 / Kichinosuke Nakano)
中野吉之伴
なかの・きちのすけ/1977年生まれ。ドイツ・フライブルク在住のサッカー育成指導者。グラスルーツの育成エキスパートになるべく渡独し、ドイツサッカー協会公認A級ライセンス(UEFA-Aレベル)所得。SCフライブルクU-15で研修を積み、地域に密着したドイツのさまざまなサッカークラブで20年以上の育成・指導者キャリアを持つ。育成・指導者関連の記事を多数執筆するほか、ブンデスリーガをはじめ周辺諸国への現地取材を精力的に行っている。著書『ドイツの子どもは審判なしでサッカーをする』(ナツメ社)、『世界王者ドイツ年代別トレーニングの教科書』(カンゼン)。