日本人選手不在のドイツ1部ケルン、なぜ日本人スタッフが勤務? 欧州クラブ最前線「必要だから取ってくれた」【現地発】
【インタビュー】ケルンで働く日本人スタッフ・笹原丈を直撃「スポンサー獲得が主」
日本人の海外進出はいろんなジャンルに及んでいる。ドイツ1部ブンデスリーガのケルンに日本人フロントスタッフがいるのをご存じだろうか。笹原丈、28歳。日本人選手が所属しているクラブで、SNSでの広報活動を拡大のために日本人スタッフを入れるのはよくある話。かつては奥寺康彦、その後も槙野智章、長澤和輝、そして大迫勇也と日本人選手が活躍してきた土台はあるとはいえ、現在ケルンでプレーしている日本人選手はいない。
なぜケルンは日本人スタッフを迎え入れたのだろうか。本人に直接いろいろな話を伺ったなか、短期連載でお届けする。(取材・文=中野吉之伴/全3回の1回目)
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「まずですが、ブンデスリーガ全体として、国際展開をしていこうという動きがあります。そのなかで1.FCケルンとしても、新しい経営戦略を打ち出そうとしている背景があったのは確かです。実際に3年ぐらい前まで、ケルンは目標としてのマーケットを中国に置いていたんです。ただそれが思っていたように上手くいかず、その次のマーケットとして日本をターゲットにした流れがあったようです」
ブンデスリーガクラブと日本企業の関わりというのはそう簡単に生まれるものではない。基本的には日本人選手がそのクラブで活躍することで広告効果が大きく上がるという条件がないと、なかなか海外のクラブへ出資したり、スポンサー契約を交わしたりという流れに発展しないのは理解できる話だ。
だが、それではいつまでも限定的な関わり合いにしかならない。ブンデスリーガによる国際戦略とは、そうした垣根を飛び越えて、国際的な市場にブンデスリーガとの交流が確かなメリットになり、喜びをもたらすということを証明していくことが求められている。
例えば日本人が多く住むデュッセルドルフに居を構えるフォルトゥナ・デュッセルドルフが、日本人選手がいない時期もサポートしてくれる日本企業との関わり合いを生み出すことができたのは偶然によるものではなく、クラブとつながるその価値を明確にすることができたからだろう。
笹原もそうした背景のなかで、自身が担う役割をよく理解している。
「自分の仕事を1つに絞るのは難しいんですけど、具体的に言わせていただくと、やはりスポンサー獲得が主なことになります。どのようにアプローチすればいいかを常に試行錯誤しています。例えば昨年のあるホームゲームでジャパンイベントというのをして、いろんな日本企業の方、領事館の方、欧州サッカー界で活躍されている方々を招待して、スタジアムの雰囲気を感じてもらうという試みをしました。ケルンはこんな素晴らしいクラブなんですよっていうことを実際に見てもらうのが一番だと思うんです。すぐにとはいかなくても将来的にスポンサーにという関係性を築いていけるように切磋琢磨しています」
“結果”を強く意識、目標は「ブンデスリーガの中で一番日本から近いクラブ」
国際戦略を進めているのはケルンだけではない。ドイツでいえば、バイエルン・ミュンヘンやボルシア・ドルトムントといったUEFAチャンピオンズリーグ(CL)に常に出場している強豪も精力的に動いている。彼らのほうがネームバリューはあるし、動いているお金もマンパワーも違う。いくらブンデスリーガの古豪という立ち位置があるとはいえ、それがそのまま日本における魅力につながるわけではない。笹原もそうしたアプローチの取り方について苦心していることを明かしてくれた。
「ほかのクラブとの差をどこで付けるかっていうのがありますし、難しいところです。うちはビッグクラブでもありません。バイエルン・ミュンヘンやドルトムントとは立ち位置が全然違う。じゃあどこで差を付けるかと言ったら、うちのスローガンにあるんですけど、『spulbar anders』のところだと思っています。日本語に訳すと『ほかとは違う感じ方』となりますね。ケルンのスタジアムにある独特な雰囲気。この地域のファンみんなが魅了されているこの雰囲気。スタジアムにきてくれた方だったら分かってもらえるというこの空気感を、どうやって日本の方々に感じていただけるのかというのが最大の課題になります。具体的なところで自分が今目標にしているのは、『ブンデスリーガの中で一番日本から近いクラブ』というものです。ファンから近い、企業さんから近いクラブという立ち位置を目指しているんです」
今の時代、さまざまなクラブがSNSを利用してたくさんの情報を発信している。でもその先へ進めないと、ファンや企業の共感は得られない。ビッグクラブではできないファンや企業からすぐ手が届くところのクラブ、身近で親しみやすいクラブを目指すというのは、クラブカラーとも合っている。
ケルンのほうから必要とされて迎え入れられただけに、なんらかの結果を出すことが求められていることもよく分かっている。プレッシャーだってある。簡単な仕事ではない。でもそれは覚悟の上だ。
「プレッシャーはめちゃくちゃあります。自分が必要でクラブにお願いしたわけじゃなくて、クラブが必要だから自分を取ってくれたわけなので。結果を出さないと、という覚悟はいつも持っています。僕にできることには限りがあります。そしてブンデスリーガのクラブといっても1つの企業と変わらないので、本当にマネタイズは重要です。それがないとビジネスはできません。僕は僕にできるところで売り上げアップを実現して、クラブに貢献していきたいと思っています」
ヨーロッパクラブのフロントで戦う日本人が、新しい風をもたらすのを期待したい。
(中野吉之伴 / Kichinosuke Nakano)
中野吉之伴
なかの・きちのすけ/1977年生まれ。ドイツ・フライブルク在住のサッカー育成指導者。グラスルーツの育成エキスパートになるべく渡独し、ドイツサッカー協会公認A級ライセンス(UEFA-Aレベル)所得。SCフライブルクU-15で研修を積み、地域に密着したドイツのさまざまなサッカークラブで20年以上の育成・指導者キャリアを持つ。育成・指導者関連の記事を多数執筆するほか、ブンデスリーガをはじめ周辺諸国への現地取材を精力的に行っている。著書『ドイツの子どもは審判なしでサッカーをする』(ナツメ社)、『世界王者ドイツ年代別トレーニングの教科書』(カンゼン)。