“ドイツ随一”の能力を持つ遠藤航、シュツットガルト浮沈の鍵 原口元気が興味深い指摘「もっと…」【現地発コラム】
シュツットガルトで重要な存在となっている遠藤、高いボール奪取力をいかに生かすか
ドイツ1部シュツットガルトのキャプテンMF遠藤航は、相変わらずチームにとって非常に重要な存在だ。30歳の誕生日を祝った直後の試合となった第20節フライブルク戦(2月11日/1-2)でチームの先制ゴールの起点となったのは遠藤だった。
相手陣内で鋭い読みと出足でフライブルクDFルーカス・キューブラーからボールをカットすると、こぼれたボールを拾ったクロアチア代表DFボルナ・ソサからのパスを受けたMFクリス・フュルリッヒが短いドリブルからの強烈なミドルシュートをゴールに叩き込んだ。
得点力に問題を抱えているシュツットガルトにとって、カウンターで決定機演出というのは、やはり非常に大きな意味を持つ。今冬に新加入のMF原口元気もカウンターの有効活用を口にしていた。
「(狙うのは)やっぱりカウンターかな。結構(自陣)深めでボールを取っても、真ん中の3人で上手くつなぎながら、前には持って行ける。航にしろ、アタ(アタラン・カラソル)とかが落ち着いて近くに(ボールを)つけてくれるから。悪くなかったですし、個人の感覚も悪くない。あと1個かなっていう感じ」(原口)
より得点の可能性を高めるシュートチャンスを作り出すためには、より前目でボールを奪えるに越したことはない。もちろん無理に前がかりになってしまうと、逆サイドや裏のスペースを使われてピンチになる危険性も考慮しながらだが、状況的に前から奪いに行ける局面を増やせるかがポイントだ。
そうした時に鍵となるのが遠藤だ。ボールを奪い取ることにかけてブンデスリーガ随一の能力を誇る選手を生かさない手はない。原口が興味深い指摘をしていた。
「航が多分1つ(ポジション)低いほうが、もっとボールを取れると思うんですよね。8番(インサイドハーフ)特有の、相手にプレッシャーにいって(ボールを)はたかれて、また付いていってはたかれて、という繰り返しになっている。航がもっとガッて行くためには、低い位置のほうがいいかもしれない。(相手から)くさびのパスが入ってくるので、航的にはそこは狙いやすいと思う。もしかしたら航がそこにいたほうがこぼれ球とかでカウンターに行けたりするのかっていうのもある。別にアタが悪いとかじゃないんです」
遠藤の良さはボール奪取だけではなく、奪ったボールを的確に素早く前線へ展開することができる点もある。相手が組織を整えるより早く攻撃へ移行できるかは極めて重要なポイント。そこの起点を潰そうとする相手の激しい当たりも遠藤なら跳ね返し、突破することができる。ポジションや起用法というよりも、チームとしてそうした状況をどのように作っていくかはここからの残留争いにおいてとても大切なテーマになるはずだ。
遠藤の躍動感あふれるプレーが増えるとチーム全体のダイナミックさも向上
2023年のリーグ初勝利となった2月18日の第21節ケルン戦(3-0)では遠藤によるボール奪取、そしてアシストも見られた。チームとして前線から組織的に守備プレスにいく局面も少なくなかった。そうなると遠藤がボール奪取を狙えるシーンも増えてくる。遠藤がより躍動感を持ったプレーでゲームに絡めるようになると、チーム全体のダイナミックさもアップしてくる。中盤でコンビを組む原口も好タイミングでボールに絡み、アシストをマークしただけではなく、あわやのシュートシーンもあった。
ブルーノ・ラッバディア監督にとっては就任後初勝利。「勝ち点3はチームにとって必要とされていたものだ。決定的だったのは、1-0としたあとも自分たちのプレーをやり続けたことだ。重要な一歩。だが、それ以上でもそれ以下でもない。この勝利をきっかけにこれからもやり続けていく」と貴重な1勝を喜びながら、慎重な態度を崩さなかった。
勢いに乗りたいところだったが、直近の第22節では最下位シャルケと対戦し、1-2で敗れた。特に前半は不安定な戦いで、ラッバディア監督も「アクションのきっかけがなかった。押し上げがなかった。何よりも勇敢なものがなかった」と試合後の記者会見で発言し、「チームを目覚めさせないと」と危機感を露わにしていた。
22節終了時で残留圏の15位にはいるものの、16位ホッフェンハイム、17位ヘルタ・ベルリンとは同勝ち点の19。そして18位シャルケとの勝ち点差も3へと縮まっているだけに、ファンの不安も募り出す。昨季は最終節に劇的な遠藤のゴールで1部残留を決めたシュツットガルト。そしてリーグ終盤、ギリギリの試合の連続のなか攻守で活躍し、チームを何度もよみがえらせていたのが遠藤だった。今季もやはりそんなキャプテンの存在が重要になってくるのは間違いない。
(中野吉之伴 / Kichinosuke Nakano)
中野吉之伴
なかの・きちのすけ/1977年生まれ。ドイツ・フライブルク在住のサッカー育成指導者。グラスルーツの育成エキスパートになるべく渡独し、ドイツサッカー協会公認A級ライセンス(UEFA-Aレベル)所得。SCフライブルクU-15で研修を積み、地域に密着したドイツのさまざまなサッカークラブで20年以上の育成・指導者キャリアを持つ。育成・指導者関連の記事を多数執筆するほか、ブンデスリーガをはじめ周辺諸国への現地取材を精力的に行っている。著書『ドイツの子どもは審判なしでサッカーをする』(ナツメ社)、『世界王者ドイツ年代別トレーニングの教科書』(カンゼン)。