Jリーグに復帰した香川、先代の“帰国組MF”との違い 年齢に起因する3つの不安要素とは?
【識者コラム】開幕節で途中出場から華麗なスルーパスを披露、今後の活躍を考察
2023年シーズンのJリーグが開幕した。「FOOTBALL ZONE」では30周年を迎えた新シーズンを特集。約12年半ぶりにセレッソ大阪で日本に帰還した元日本代表MF香川真司について、ほかの「帰国組」を参照に識者が考察した。(文=森 雅史)
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Jリーグ開幕節、話題のひとつは古巣C大阪に戻ってきた香川真司の出場だった。約12年半ぶりの日本でのプレーでは、さっそくスルーパスを通してゴールを演出し、2回のドリブルでも巧みなステップで相手を翻弄した。
21歳でドイツに旅立ち、ドルトムントで2回、マンチェスター・ユナイテッドで1回のリーグ優勝を経験した日本代表の元10番。だが、近年は怪我に苦しんだ。2022年末には手術を受けている。
香川の活躍は一時だけか、あるいは今後も期待できるのか。ほかの「帰国組」の例を参考にすることで考えてみる。サンプルとして、香川が出場した2014年・2018年ワールドカップ(W杯)でチームメイトだったMFを取り上げた。
ブラジル大会、ロシア大会のメンバーに入り、海外に渡ったのちに日本に帰国した選手で、香川と同じくトップ下あるいは中盤でプレーする選手は、宇佐美貴史、柿谷曜一朗、山口蛍、清武弘嗣、乾貴士(帰国順)。そのうち宇佐美、山口、乾はJリーグのシーズン途中で日本復帰、清武は2017年より古巣入りした。唯一柿谷が、このなかでJ2からの再スタート(C大阪/2016年途中)となっている。
宇佐美は2回の渡欧を経験。最初に帰国した2013年以降の活躍は目覚ましく、2014年はリーグ優勝、2015年はリーグ戦34試合すべてに出場し、19点を挙げて得点ランク3位に輝いている。
2度目の帰国後はゴール数こそ減っているものの、1人で攻撃のリズムを変えられる選手として存在感を発揮。2022年は右アキレス腱断裂の怪我に泣いたものの、キャプテンとして臨んだ今シーズンは開幕戦でドリブルからゴールを挙げるなど、質の高いプレーを変わらず見せている。
柿谷は2016年、J2に降格していたC大阪に復帰すると昇格に向けて奮闘した。無事J1にチームを戻した2017年は全リーグ戦に出場してチームを牽引している。だが2018年以降は出場機会が減り、2021年には名古屋に移籍。ルヴァンカップ優勝を勝ち取ったが、2021年は監督交代と戦術変更により出番を減らし、2023年からはJ2徳島に活躍の場を移した。
山口はC大阪に復帰し移籍前と変わらぬプレーを見せている。移籍期間が半年と短かったのが奏功しているようだ。2019年に神戸に移籍しても主力選手として活躍し続けている。
香川のチームメイトである清武は、2017年に復帰した後3年間怪我に苦しめられた。それでも負傷が癒えた2020年、2021年は攻撃の起点として大活躍。味のあるプレーでチームに変化をもたらし、要所では高い技術に衰えがないことを示した。だが2022年も左足の靱帯を損傷し、出場時間を減らした。
2021年に復帰した乾は、実力を発揮しているとは言いがたい。2021年は右膝軟骨損傷の怪我を抱えたままプレーして精彩を欠き、11月に手術に踏み切った。負傷癒えた2022年は4月に川崎のホーム無敗記録を25で止める素晴らしいプレーを見せたが、同じ月に途中交代を命じられると不満を爆発させてしまう。
結局そのままC大阪ではプレーを続けず、同年7月に清水へと移籍した。それでも清水で相変わらず高いテクニックに裏付けされたプレーで観客を魅了している。
香川に起こり得る3つの不安要素を指摘も…消えぬ“大きな期待”
こうして考えると、「帰国組」のMFは海外移籍する前と同様、チームの中心として活躍できていると言えるだろう。香川にも当然「大活躍」の期待がかかる。ただし、香川には不安要素が3つある。それはどれも香川の年齢に関する問題に起因する。
ほかの「帰国組」は、乾を除くと日本に復帰したのが20代。選手として円熟味が加わっていく時期だった。勢いのあるまま、チームで活躍できたと言えるだろう。
33歳の香川にとって、(1)選手としての下り坂も見えてくる中、成長著しい若手以上の活躍が出来るか(2)日本でも主流となっているハイインテンシティーのプレーに体が耐えられるか(3)日本の高温多湿の夏場のゲームに体調を崩さないか、という点は注意しなければいけないだろう。
特に怪我明けということを考えると、慎重に起用せざるを得ないはず。短い出場時間の中で決定的な仕事をしなければいけないという状況ばかりで使われることも考えられる。はたして今の香川にそれが出来るか。
ファンはJ2でプレーしていたころの香川が「空中エラシコ」で相手をかわした姿を期待するかもしれない。何人も手玉に取ったり、意外なパスを連発していたイメージを目の前で見たいかもしれない。
だが、今の香川は当時とは、あるいはドルトムントやユナイテッドにいたころとは違っているはず。不安要素も合わせて考えると、途中から出てきていぶし銀のプレーを見せるところに落ち着くのが自然というものだ。
今季はそういう意味での「活躍」が見られることを期待したほうがいいのではないか。それでも名手の帰還ほど嬉しいものはない。もしかしたら、1年経つころにはすっかり体がJリーグを思い出して、昔のような……という夢は膨らむ。
森 雅史
もり・まさふみ/佐賀県出身。週刊専門誌を皮切りにサッカーを専門分野として数多くの雑誌・書籍に携わる。ロングスパンの丁寧な取材とインタビューを得意とし、取材対象も選手やチームスタッフにとどまらず幅広くカバー。2009年に本格的に独立し、11年には朝鮮民主主義人民共和国(北朝鮮)の平壌で開催された日本代表戦を取材した。「日本蹴球合同会社」の代表を務め、「みんなのごはん」「J論プレミアム」などで連載中。