物議を醸した広島の“ノーゴール判定” Jリーグにおけるテクノロジーの問題点を元主審・家本氏が考察
【専門家の目|家本政明】現役レフェリー時代の経験を交えつつ持論を展開
サンフレッチェ広島は2月18日のJ1リーグ開幕節で北海道コンサドーレ札幌と対戦しスコアレスドローとなったなか、広島側への“ノーゴール判定”が話題に。後日元国際審判員・プロフェッショナルレフェリーの家本政明氏が判定の是非やJリーグにおけるテクノロジーの問題点について持論を展開している。(取材・構成=FOOTBALL ZONE編集部・金子拳也)
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話題となったのは後半29分の判定だ。広島が左コーナーキックのチャンスを得たなか、キッカーのMF野津田岳人が蹴ったボールに対しニアサイドでDF佐々木翔が反応。コースが変わってファーサイドに流れたボールをMF川村拓夢がヘディングで押し込もうとするも、札幌GK菅野孝憲が左足でセーブした。
最終的に御厨貴文主審はノーゴールと判断したが、スロー映像上では、菅野の左足はゴール内でボールに触れており、得点したようにも見える。この際どいシーンに家本氏は「状況的に現場のレフェリーが見極めることは100%不可能。映像をコマで送って初めて分かるもので、コマ送りで見ると入っていると思う」と見解を示した。
その理由について「菅野選手の足がゴールの中に入っている。ボールが明らかにラインを割ったかどうかは奥に(芝生の)緑が見えるかどうかが1つの指標になる。僕は目視で緑色が見えた」と自身の考えを提示。そのうえで、「VARがなぜ見えなかったのか」をレフェリー目線で考察している。
「経験から言うと、Jリーグ審判団のVARが扱う映像の画素数は結構粗い。アップにするとぼやけるような精度。VARが自信を持って入っている証拠が出せなかったのが今回のケースだと思う。経験上あり得る話」と指摘。VAR側の人間が「言い切ることができない」現状の“システム能力”の問題だと明かした。
そうした背景から、VARはサポートできずゴールは認められなかったとしている。
家本氏の指摘とおりなら、これはシステム上の問題のため“より高度なテクノロジー”の導入が解決策となる。ただJリーグの財政状況に加え、「投資の話なので、1年間でどれだけこのシーンがあるかも考えなければいけない」と問題が山積みなことも明らかにした。
J2へのVAR導入などに予算を使うか、より高度な機械の導入を先に行うかはJリーグの判断次第となる。
また後日、JFA(日本サッカー協会)審判委員会は2月22日にメディアに向けて“緊急ブリーフィング”を実施。審判委員長である扇谷健司氏が広島側のゴールを「ゴールインにすべき事象だったと結論付けた」と見解を発表した。
家本氏も「元レフェリーからすると、このシーンが正しく判断できなかった理由に、人的な問題に加え技術的な問題も絡んでいる。誤審やヒューマンエラーというのは簡単だが、そう簡単に解決できる問題とは思わない。解決するには資金確保、時間、教育プログラム、人材の確保等、多くの課題を抱えている。とても難しい問題だと思う」と話すように、課題の解決にはもう少し時間がかかりそうだ。
家本政明
いえもと・まさあき/1973年生まれ、広島県出身。同志社大学卒業後の96年にJリーグの京都パープルサンガ(現京都)に入社し、運営業務にも携わり、1級審判員を取得。2002年からJ2、04年からJ1で主審を務め、05年から日本サッカー協会のスペシャルレフェリー(現プロフェッショナルレフェリー)となった。10年に日本人初の英国ウェンブリー・スタジアムで試合を担当。J1通算338試合、J2通算176試合、J3通算2試合、リーグカップ通算62試合を担当。主審として国際試合100試合以上、Jリーグは歴代最多の516試合を担当。21年12月4日に行われたJ1第38節の横浜FM対川崎戦で勇退し、現在サッカーの魅力向上のため幅広く活動を行っている。