J3松本から飛躍へ「日の丸も狙える」注目の7人 “三笘彷彿”ドリブラーらタレント厳選

(左上から時計回りで)DF藤谷、MF菊井、MF滝、FW田中【写真:河治良幸】
(左上から時計回りで)DF藤谷、MF菊井、MF滝、FW田中【写真:河治良幸】

【識者コラム】“名伯楽” 霜田新監督を迎え、新シーズン迎える松本に注目

 J1とJ2が開幕した2023シーズンだが、J3は2週間遅い3月4日に開幕する。2度のJ1を経験し、カタール・ワールドカップ(W杯)にも出場した日本代表FW前田大然(セルティック)が巣立ったクラブとして知られる松本山雅FCだが、昨シーズンは名波浩前監督のもとで4位。惜しくもJ2昇格を逃し、J3で2シーズン目となる。

 そんな松本が迎えたのは霜田正浩新監督だ。かつてJFA(日本サッカー協会)で技術委員長を務め、レノファ山口FCや大宮アルディージャを率いた気鋭の指揮官は自分たちからアクションして得点する仕組みをチームに植え付けることで、リーグ8位だった総得点46から大幅な得点力アップを狙う。

 チームは松本で始動し、和歌山合宿、神戸とのトレーニングマッチを挟んで鹿児島合宿と強化を続けてきた。全体をコンパクトにしながら縦にボールを付けていくこと、そして前に人数をかけることを怖がらないための意識付けに、霜田監督はエネルギーを注いでいる。

 これまでFWオナイウ阿道(トゥールーズ)やDF小池龍太(横浜F・マリノス)、MF小野瀬康介(湘南ベルマーレ)、DF菊池流帆(ヴィッセル神戸)らを指導してきた霜田監督。まずはJ2昇格を目指して戦うが、上のカテゴリーでも通用するサッカー、そして選手を育てていくことは、「こんなにサポーターが熱いクラブはJ1やJ2でもなかなかない」と自負する霜田監督のミッションだ。

 そんな松本から飛躍を目指す7人の注目選手を紹介する。伸びしろも含めてJ2、J1とステップアップしていけるポテンシャルがあり、成長次第では日の丸も狙えるタレントたちだ。そのほかにも有望なタレントはいるが、それはJ3開幕後に確かめてほしい。もちろん、J3はライバルも手強く、簡単に昇格できるリーグではないことは昨年の松本が身を持って味わっている。しかしながら“名伯楽”である霜田監督のもとで、チームとともにどう進化を遂げるのか楽しみだ。

MF住田は「スーパーボランチ」への進化に期待

■MF菊井悠介(23歳)
昨季リーグ成績(J3):32試合2得点

 霜田監督が特別な期待を寄せる1人で、J3で燻っているのは勿体なさすぎる才能だ。大卒ルーキーだった昨シーズンも、名波前監督に主力として起用されたが、攻守のバランスが難しくなるなかで、前にエネルギーをかけられなかったところもある。指揮官のプレーモデルは4-4-2であろうと、4-3-3であろうと3人のアタッカーに点を取らせることを主眼とするが、フィニッシュに関わるプラスアルファが菊井の役割で、得点の鍵となる。その指標として「10得点10アシスト」を自らに課しているという。親戚であり、流通経済大の先輩でもある日本代表MF守田英正(スポルティング)をお手本にしているという菊井。ポジションは前目だが、試合を読んで周りに伝える力をさらに身に付けて、まずはJ2昇格、そしてさらに先を視野に入れている。

■MF住田 将(23歳)
昨季リーグ成績(J3):20試合3得点

 現役時代に“左利きのプレーメーカー”と称された名波前監督から多くのことを教わった。大卒2年目となる今シーズン、霜田監督からは中盤でボールを捌くだけでなく、勇気を持って前に出ていくことを求められている。トレーニングマッチを見る限り、タイミングを掴めているとは言いがたい。霜田監督が得点の指標とする「3+1」の「1」は菊井やMF滝裕太の役割だが、そこにもう一枚加われば厚みのある攻撃が完成する。ボランチとして長短のパスセンスに疑いの余地はないだけに、ボールを奪う強さと縦の推進力を発揮できるようになれば、松本の昇格を力強く支える「スーパーボランチ」へと進化できるだろう。またセットプレーの左足キッカーとしても多くのアシストが期待される選手だ。

■FW田中想来(18歳)
今季トップ昇格

 昨シーズンの天皇杯、長野パルセイロとの“信州ダービー”で、ユースの2種登録ながらデビュー戦ゴールを決めて、地元では早くも注目を集めた。今年は正式なプロ1年目だが、霜田監督もエース候補のFW渡邉千真と2トップを組ませるなど、指揮官も若きストライカーにチャンスを与えそうだ。“ネクスト大然”とも期待されたFW横山歩夢が昨年11得点を記録し、J1のサガン鳥栖にステップアップ移籍。田中は「歩夢くんと同じルートに乗って行きたい」と目を輝かせるが、あくまで自分の持ち味を生かしてゴールをマークしていく構えだ。その持ち味とは裏抜けのセンス。そこに関しては「絶対に誰にも負けられない」と主張する。目標は3年半後の北中米W杯。まだ世代別の代表に呼ばれたこともないが、恩師である名波前監督がコーチに就任したA代表を「本気で目指している」と語ってくれた。まずはJ3で圧倒的な結果を出し、昇格に導く活躍が期待される。

神戸アカデミー育ちDF藤谷の“再生”へ霜田監督は自信

■DF藤谷 壮(25歳)
昨季リーグ成績(J3):34試合0得点

 ヴィッセル神戸のアカデミー育ちであり、かつては東京五輪世代を担う右サイドバックとして期待された。しかし、度重なる怪我も経験するなかで伸び悩み、過去2シーズンはギラヴァンツ北九州でプレー。昨年は松本と同じJ3で戦ったが、霜田監督は「必ず再生させますよ」と自信を語るほど、ボールを奪って攻め上がる能力は高い。ただ、合宿のプレーを見る限り、ダイナミックさはまだまだ上げられるはず。サイドバックというポジションだが「3トップに点を取らせる」霜田サッカーだけに、J3でアシスト王になるぐらいの活躍に期待したい。

■MF滝 裕太(23歳)
昨季リーグ成績(J1):9試合0得点

 清水エスパルスからの育成型期限付き移籍だが、本人は「覚悟を持ってきました」と語るように、MF久保建英(レアル・ソシエダ)らとしのぎを削ってきたアンダー代表時代から飛躍しきれていない現状を受け止めつつ、代表や世界での活躍を諦めていない。攻撃的なポジションならどこでもこなせる技巧派で、霜田監督も「飲み込みが早い」と評価するが、言い換えると絶対的な武器を見出せていない。ドリブルやパスはハイレベルだが、周囲と響き合うことで輝きを増していくタイプだ。「常に海外でプレーしたいって思ってますし、そのために今、自分が何をしないといけないかをしっかり考えて、今年1年やって行きたい」と不退転の思いでJ3の舞台に挑む。

■DF常田克人(25歳)
昨季リーグ成績(J3):30試合4得点

 個人として跳ね返す能力はベガルタ仙台から松本に来た2020年の頃から非凡なものがあった。一方で危機察知能力に欠け、失点する様を立ち姿勢で見送るようなシーンも見られた。しかし、昨年あたりからディフェンスを統率する姿が伝わるようになっており、時には持ち場を離れてボールをクリアしたり、身体を張るプレーでチームを度々救っている。霜田監督の攻撃的なスタイルには同数でも守り切れるセンターバックの存在が不可欠だ。経験豊富な35歳DF橋内優也を筆頭にライバルは多いが、厳しい戦いが予想される今年のJ3を戦い抜くキーマンの1人だろう。

■MF濱名真央(22歳)
今季新加入

 MF三笘薫(ブライトン)を想起させる両足を駆使した切れ味鋭い高速ドリブルは、個性的なタレントが集う松本にあっても“違い”が分かる。お膝元の松本大学から昨シーズンは特別指定選手として、序盤戦の3試合に出場した。しかし、怪我で離脱したことと大学の活動も重なり、その後は鳴りを潜めた。「1年間、全力でプレーしたいと思います。もちろん、まずは開幕スタメンを狙ってやっていきたい」と語る濱名。得意のドリブルはもちろん、霜田監督からは積極的に裏抜けを狙うように言われているという。MF香川真司(セレッソ大阪)を輩出したFCみやぎバルセロナの出身で、憧れの存在でもある。その香川はJリーグに復帰。「バイエルン相手にあれだけのターンをしたり、ゴールとかも全然決めてましたし、凄い上手い」と語る香川と同じステージに、近い将来立つチャンスは十二分にある。

(河治良幸 / Yoshiyuki Kawaji)

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河治良幸

かわじ・よしゆき/東京都出身。「エル・ゴラッソ」創刊に携わり、日本代表を担当。著書は「サッカーの見方が180度変わる データ進化論」(ソル・メディア)など。NHK「ミラクルボディー」の「スペイン代表 世界最強の“天才脳”」を監修。タグマのウェブマガジン「サッカーの羅針盤」を運営。国内外で取材を続けながら、プレー分析を軸にサッカーの潮流を見守る。

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