フライブルク堂安律「俺らしいですか?」 成果が表われたPK奪取プレーの舞台裏「南野拓実を意識しながら」【現地発コラム】
シュツットガルト戦で堂安がPK奪取
フライブルクでプレーする日本代表MF堂安律が第20節シュツットガルト戦(2-1)で見せた決勝点につながるPK奪取プレーは興味深い試みだった。
後半25分、ペナルティーエリア付近で韓国代表MFチョン・ウヨンのパスを受けると、素早く寄せてくるシュツットガルトDFダン=アクセル・ザガドゥのタックルを上手く外して前を向き、勢いあまって足を残した相手にそのまま倒された。ビデオ判定でチェックされたあとにペナルティーキック(PK)として認められたこのシーンは、これまでの堂安の取り組みの成果が出たプレーでもあった。
「(あのプレーは)俺らしいですか? あんまり、中(に入って)プレーしないので」(堂安)
試合後のミックスゾーンで、「らしいプレーを見せた?」と記者陣に聞かれると堂安はそう答えていた。確かにアウトサイドでボールを受けながら仕掛ける、ゴールにつながるプレーのほうが彼らしいプレーかもしれない。
ただ、17節フランクフルト戦(1-1)後に「(ペナルティーエリア内へのパスに合わせて)入っていくというのは自分の課題であって、意識してた」と語っていたように、最近は特にペナルティーエリア内に入ってボールを受ける頻度、タイミングが向上している。
「南野拓実を意識しながら(笑)。分析で相手DFが来るっていうのは分かっていましたし、パス受けた瞬間に中のラインが見えたんで、ちょっと無理やりでも行こうと思った。感覚的には間違いなくファウルだったので、それほどビデオ判定の時は焦らず、間違いなくファウルだと思いながら」(堂安)
狭いスペースでも怖がらず勇敢に、そして確かな確信を持って仕掛ける。これは相手チームにとって非常に怖い。そしてスタジアムに詰めかけた観衆を大きく沸かせるプレーでもある。
「やっぱり観客を魅了できる選手というのは、仕掛ける選手だと思う。見てて楽しい選手とか、ワクワクする選手になりたいです。だったら仕掛けて、1対1だったら間違いなく仕掛けることを意識してますし、1対2とか、1対1.5というか2人目のDFが来てるか来てないかの時は、仕掛けるようにしている」(堂安)
堂安が感じる課題「PKをもらう選手というのが日本人はあまりいない」
PKを取るプレーはサッカーにおいて大きな意味を持つ。どれだけ執拗に守備を固めても、一瞬のスキを突いてPKを奪取できれば、GKと1対1でシュートを打つ機会を手にできるのだ。狙わない手はない。堂安もそこを感じている。
「特にワールドカップ(W杯)を見ても、PKをもらう選手というのが日本人はあまりいなくて、そこも正直、課題だなと思います。フライブルクはPKをもらう選手がすごく上手くて。PKもやっぱサッカーのルールの1つなので。仕掛ければ何か起きるっていうのはイメージしながら、プレーしています」
相手がPKを警戒して足を出さなければ、そこから決定的なシュートやパスが生まれる。相手との心理戦で有利に立てる状況を作り出せるというわけだ。後半44分にはザガドゥと対峙すると小刻みなステップで相手を翻弄し、うしろから加勢しようとするボルナ・ソサとの間にできたスペースに強引に入り込み、左足シュートへ持ち込んだ。本人もこうしたプレーへの思い入れが強い。この日あったチャンスで一番ゴールへ結び付けたかったプレーについて聞いてみたところ、このプレーを挙げていた。
「最後のカットインのところですかね。あそこは自分の特徴でもありますし、相手がバテてるなかで仕掛けるというのは自分の良さ」
分かっていても止められない選手へのチャレンジだ。飛び込んだらかわされる。距離を取ったら、仕掛けられる。無理にいったらファウルを取られる。ワールドクラスの選手はそうした駆け引きにも長けているし、実践能力が極めて高い。さらなる成長へ向けて、堂安は走り続ける。
中野吉之伴
なかの・きちのすけ/1977年生まれ。ドイツ・フライブルク在住のサッカー育成指導者。グラスルーツの育成エキスパートになるべく渡独し、ドイツサッカー協会公認A級ライセンス(UEFA-Aレベル)所得。SCフライブルクU-15で研修を積み、地域に密着したドイツのさまざまなサッカークラブで20年以上の育成・指導者キャリアを持つ。育成・指導者関連の記事を多数執筆するほか、ブンデスリーガをはじめ周辺諸国への現地取材を精力的に行っている。著書『ドイツの子どもは審判なしでサッカーをする』(ナツメ社)、『世界王者ドイツ年代別トレーニングの教科書』(カンゼン)。