三笘薫の無双ドリブル、世界的にオリジナル型? 守備者が「気付けば抜かれる」特異技を考察
ドリブル突破時の上体はバランスを維持、ほぼ下半身の転換だけで左右を変換
ドリブルのシーンに話を戻すと、スミスはボーンマスの右SBで、最も三笘を警戒して試合に臨んでいたはず。このシーンはボックス内だったので、より選択肢のあるシチュエーションという意味では三笘に有利なところもあるが、やはりシンプルに突破したところで、ニアのスペースは消されている状況だった。
そこから右足と左足のダブルタッチを活用したわけだが、三笘はドリブルの時も姿勢が立っているので、上体をほとんど変えないまま右から左に方向転換できる。つまり上体はバランスを維持したまま、ほぼ下半身の転換だけで左右を変えながら、そのまま前に推進できるのだ。
だから相手の重心がどちらかに傾く瞬間に、三笘が切り返すタイムラグがないに等しく、そのまま背後や逆側を取ることができる。このシーンでスミスは両膝を地面に着いてしまっており、同様に釣られたうしろのメファムも、入ってくるボールのリアクションが遅れてしまった。
前半44分には左でボールを受けた三笘が、一瞬で2人のディフェンスをインに振り切るシーンがあった。ここはカバーに入ったセンターバックのメファムが身体に当ててシュートを弾いたが、ここで三笘のもう1つの強みが発揮されていた。
このシーンは中央のFWダニー・ウェルベックからボールを受けて、そこからゴール方向に直進すると見せかけて、カットインするという形だった。先ほどのシーンと違い、中にスペースが生じているので、左足でピッチを踏み込んだ直後に右足アウトでボールをインに大きく持ち出している。
ドリブラーの1つの問題として、武器であるドリブルが手段ではなく目的になってしまいがちなところだが、三笘はこうした周囲の状況を観察しながら、目の前の相手を突破するだけでなく、次の行動も想定してボールをタッチする強弱も操っている。これこそ、戦術的なブライトンというチームで、武器をオープンに生かせている理由だろう。
かつて三笘がJ1川崎フロンターレの特別指定選手だった時に、紅白戦などでマッチアップした経験を持つMF鈴木雄斗(ジュビロ磐田)にこんな話を聞いたことがある。鈴木曰く、ボールが取れたと思った瞬間にもう一歩足が出てきて、気付けば抜かれているような感覚だという。守る側としては三笘を知るほど迂闊に飛び込めなくなり、その状況を利用されて、前向きに仕掛ける姿勢を見せながら、選択肢を広げているのは厄介なところだろう。
河治良幸
かわじ・よしゆき/東京都出身。「エル・ゴラッソ」創刊に携わり、日本代表を担当。著書は「サッカーの見方が180度変わる データ進化論」(ソル・メディア)など。NHK「ミラクルボディー」の「スペイン代表 世界最強の“天才脳”」を監修。タグマのウェブマガジン「サッカーの羅針盤」を運営。国内外で取材を続けながら、プレー分析を軸にサッカーの潮流を見守る。