森保ジャパン、3月代表戦で欧州組の大量招集は“愚” 国内の強化試合はJリーグ組を中心にすべきだ
【識者コラム】3月の代表戦、欧州組をどこまで招集するかは新たなスタートのポイント
3月に日本代表の強化試合が2試合組まれている。カタール・ワールドカップ(W杯)後初の試合がどういう位置づけになるのかは興味深い。
そもそもこの時期の強化試合に欧州でプレーする選手をどこまで招集するのか。これは新しいスタートにおけるポイントの1つと見ている。
従来のように欧州から片道11時間、時差8時間の移動を強行するのかどうか。いわゆる欧州組を主力と考えた場合、この時期に日本への移動を強いるのは強化ではなく弱化である。良いコンディションでプレーできるとは思えないうえ、欧州に戻ってすぐプレーできるかどうかも分からず、無理をすれば負傷やコンディションの低下、あるいはポジション争いが不利になってしばらく出番を失うリスクがある。
欧州でプレーしている選手のキャリアを損なうのは日本代表にとって明らかにマイナスであり、そのリスクを冒してまでこの時期の強化試合に招集するのは自ら首を絞めるような行為と言える。興行的には欧州組の顔見世試合とするのが上策なのだろうが、お金のために強化を誤るのは選手、ファンの信頼にキズを付けるだけだ。また、選手の所属する欧州クラブとの関係からいっても良くないだろう。
W杯で増えたファンを定着させたいのは分かるが、これまでもこの方法で上手くいった試しがない。一時的に急増したファンは、短期間に元通りになるのがこれまでのデータとして表れている。W杯のバブルを取り込むパイプをすでに日本サッカー界は失っているからだ。
代表でプレーする欧州組は国内にいない。Jリーグを見ても代表選手はほとんどいないわけだ。つまり代表ファンをJリーグに取り込んで定着させるパイプがない。JはJで着実に発展していて、プレーのレベルもかなり高いのだが、W杯でサッカーに注目したファンにはそれが実感できていない。Jリーグの発足目的として、当初は日本代表の強化が謳われたいたが、今はその方向性を逆にする必要がある。Jリーグの人気向上のために日本代表を利用すべき時期なのだ。欧州組もかつてはJリーガーであり、Jリーグの発展なくして日本代表の強化はあり得ない。
国内の強化試合はJリーグの選手を中心にすべきだと思う。欧州組のキャリアを棄損するリスクを軽減するとともに、国内組の認知度を上げる。何人かは欧州組を招集するとしても最小限にとどめ、国内組中心でも国際試合で十分に通用することを示したほうが良い。Jリーガーにはすでにそれだけの実力があるはずなのだ。
欧州組は主に欧州で試合を組んで招集する。つまり2本立ての強化策だ。1つのチームに収斂させるのはW杯の1年前でいい。それまでは国内組に五輪代表を含めるなど総合的な底上げを図ったほうが、強化の面でもJリーグの人気向上のためにも良いように思われる。ともあれ、3月の2試合に欧州組を大量招集する愚は避けていただきたいものだ。
(西部謙司 / Kenji Nishibe)
西部謙司
にしべ・けんじ/1962年生まれ、東京都出身。サッカー専門誌の編集記者を経て、2002年からフリーランスとして活動。1995年から98年までパリに在住し、欧州サッカーを中心に取材した。戦術分析に定評があり、『サッカー日本代表戦術アナライズ』(カンゼン)、『戦術リストランテ』(ソル・メディア)など著書多数。またJリーグでは長年ジェフユナイテッド千葉を追っており、ウェブマガジン『犬の生活SUPER』(https://www.targma.jp/nishibemag/)を配信している。