序列は下がるどころか価値は上昇 アーセナル冨安の“現在地”と見据えるリーグ優勝へのビジョン
【英国発コラム】4回戦敗退のFAカップ、冨安健洋の取材を巡る“攻防”
現地時間1月27日のFAカップ4回戦マンチェスター・シティ戦まで、イングランド1部アーセナルに所属する冨安健洋と話すチャンスはなかった。シーズンが折り返し地点に差し掛かったタイミングであるにもかかわらず、である。
そもそも、冨安はそう簡単に報道陣の前で足を止めてくれない。もとい、冨安だけではなくアーセナルの選手のほとんどは取材に応じてくれないのだ。だからこそ、日本のファンも冨安の声があまり届いてこないと感じているのではないだろうか。
プレミアリーグのスタジアムは通常、選手が「ミックスゾーン」と呼ばれる取材エリアを通らなければ帰れない構造になっている。ところがビッグクラブになればなるほど、そうではなくなる。欧州主要大会の場合はミックスゾーンの通過が義務化されているが、リーグ戦や国内カップ戦だと報道陣の前を通らなくてもスタジアムの外に出られる通路を選手たちは利用する。
それはやはり、英国メディアの報道姿勢が苛烈だからだろう。試合終了直後のアドレナリンが分泌し続けている状態で狡猾な取材陣の誘導に引っかかり、ほんの少しでもチームメイトやコーチ陣に対する不満など漏らそうものなら、あっという間に炎上してしまう。
リバプールとシティのホームスタジアムは例外で、選手はミックスゾーンを通らなければ帰れない。とはいえ、負け試合のあとなら選手たちは当然のように口をつぐむ。ネガティブなことを絶対外に漏らさず、話をするのはスポークスマン的な存在の選手だけだ。
案の定、FAカップ4回戦では0-1の敗戦を喫していたこともあり、アーセナルの選手たちは無言で報道陣の前を通り過ぎて行く。この日、先発フル出場し好パフォーマンスを披露した冨安は立ち止まってくれるだろうか――。
足を止めないアーセナルの選手たちに若干の焦りを感じ、筆者は知恵を絞ることにした。シティ本拠地「エティハド・スタジアム」のミックスゾーンは選手控室から専用駐車場までの通路上に設営されており、報道陣は控室側に固まっている。一方で駐車場側には出待ちのファンが固まり、見ているとアーセナルの選手はサインや写真撮影のリクエストに応じていた。
そこで、ファンの群れの最後尾へと移動することに。ファンと交流したあとなら、相手がメディアであっても少しは足を止めやすいはずだ……。
思った通り、冨安は報道陣の前を無言で通り過ぎるものの、ファンサービスには応えている。そしてスタジアムを後にしようとした瞬間、「冨安くん!」と声をかけた。
「まいったなあ……」という表情を見せる冨安。しかし、「3問だけなら」と言って取材に応じてくれることになった。結果的に4つの質問を当てることになったが、なんとかこうして直接取材にこぎつけたわけである。
森 昌利
もり・まさとし/1962年生まれ、福岡県出身。84年からフリーランスのライターとして活動し93年に渡英。当地で英国人女性と結婚後、定住した。ロンドン市内の出版社勤務を経て、98年から再びフリーランスに。01年、FW西澤明訓のボルトン加入をきっかけに報知新聞の英国通信員となり、プレミアリーグの取材を本格的に開始。英国人の視点を意識しながら、“サッカーの母国”イングランドの現状や魅力を日本に伝えている。