“プロ3人誕生快挙”の高校サッカー部が活況 相次ぐ海外からの指導者売り込み、入学希望者が殺到する理由
【識者コラム】プロ選手育成をテーマに掲げる相生学院高校、海外からスタッフが集結
プロ選手の育成をメインテーマに掲げた相生学院高校が活況を呈している。
複数の天然芝や人工芝のピッチ、さらには室内練習場、砂浜などが利用できる恵まれた環境には、5か国以上から経験豊富なスタッフが集結し、今春には80名前後の有望な新入生を迎える予定だ。
プロジェクトを企画し現在はGM兼監督として推進している上船利徳が、こうして多国籍のスタッフを迎えたのは、あくまで選手たちの需要に応えるためだ。
「まず育成年代は、指導者にとっても登竜門と考えられがちですが、逆に本来は最も経験豊かな人材が必要です。それに今の子供たちは、早く世界に出て活躍したいと願っています。そのためにはやはり世界基準を知る指導者が要る。また僕自身も30歳で発展途上なので、こうして国際経験豊かな指導者の方々から学ぶことで成長を実感しています」
創設して2年目には、ゼムノビッチ・ズドラブコを監督に迎えた。ところが間もなくJ3のカマタマーレ讃岐からオファーを受け、プロの世界に復帰していく。すると今度は、アーセナルで15年間にわたりGKコーチを務め、UEFA(欧州サッカー連盟)のプロライセンスを持つジェリー・ペイトン(現役時代はアイルランド代表)を後任に据えた。
「ジェリーを迎えた効果は物凄く大きかった。さすがにプレミアリーグで経験を重ねて来た戦術眼は並外れていたし、常に相手を信じて絶対にネガティブな発言をしない選手との接し方が参考になりました」(上船監督)
ペイトン前監督は、ちょうど一期生が最上級生になる一昨年から指揮を執り、無名の選手ばかりを集めたチームは全国高校選手権の兵庫県大会で決勝まで勝ち進む。しかも中学時代は全国大会さえ未経験だった選手たちの中から3人のプロが誕生した。
この快挙への反響は予想以上で、昨年は海外からも指導者の売り込みが相次ぎ、入学希望の選手たちの練習参加も連日途切れず、最終的には300人ほどの選手たちが淡路島まで足を運んだ。そして年末、ペイトン前監督にはJ1に復帰した横浜FCからオファーが届き、再びプロの世界に戻っていった。
上船監督が続ける。
「2人の監督がJクラブへ移籍し、そういう道が拓けたことも相生学院へ来るモチベーションになっている可能性はあります。ただしウチに来てくれる外国人指導者は、趣旨に賛同し十分なキャリアを経て日本サッカーの発展に貢献したいと考えている方々ばかり。厚遇でないのは承知のうえで、別の価値観を持っていただいています」
加部 究
かべ・きわむ/1958年生まれ。大学卒業後、スポーツ新聞社に勤めるが86年メキシコW杯を観戦するために3年で退社。その後フリーランスのスポーツライターに転身し、W杯は7回現地取材した。育成年代にも造詣が深く、多くの指導者と親交が深い。指導者、選手ら約150人にロングインタビューを実施。長男は元Jリーガーの加部未蘭。最近選手主体のボトムアップ方式で部活に取り組む堀越高校サッカー部のノンフィクション『毎日の部活が高校生活一番の宝物』(竹書房)を上梓。『日本サッカー戦記~青銅の時代から新世紀へ』『サッカー通訳戦記』『それでも「美談」になる高校サッカーの非常識』(いずれもカンゼン)、『大和魂のモダンサッカー』『サッカー移民』(ともに双葉社)、『祝祭』(小学館文庫)など著書多数。