ブライトン三笘、躍動後に語った「見えすぎる」発言の真意 日本人アタッカーが抱く“究極のジレンマ”
ファイナルサードに侵入した場面で「見えすぎる」
三笘がリバプール戦でもゴールを挙げることができていれば、まさに文句なしだっただろう。この試合でも後半に左サイドから中央にカットインして、2本のシュートを打つなどゴールを狙う姿勢を見せていた。こうしたスタイルで今後もゴールを狙っていくのかと問いかけると、三笘は「間違いないですね」と力強く一言。しかし、続けた言葉のなかに気になるフレーズがあった。
「あそこは(シュートが)足りないところなので、その精度を高めるのももちろんですが……でも逆に『見えすぎ』て。シュートを求められているのに、 逆にパスしたり……。自分の判断でうまく自分の形を作っていければいいと思いますけど、まだそういう形を作れていない。そこは課題かなと思います」
そう言われると、前半に左サイドからカットインしてシュートを狙えるチャンスで三笘はパスを選択していた。アーノルドとマティプが揃って激しいマークを見せていたとはいえ、それでも自力でフィニッシュに持ち込むこともできたはずだ。
「ファイナルサード」と呼ばれる相手ゴールに最も近い3分の1のエリアでは敵のプレッシャーがキツく時間もスペースもなくなるため、そんななかで「見えすぎる」と語る三笘の視覚の広さは尋常ではない。しかし、広い視野が確保された状態で状況判断が“優れすぎ”てしまうことにより、シュートを打つ頻度が減ってしまっては本末転倒だ。
この点については、ブライトンのロベルト・デ・ゼルビ監督も試合直後の会見で三笘と同様の見解を見せている。
カタール・ワールドカップから帰還して、すっかりレギュラーに定着した三笘について聞かれたイタリア人監督は開口一番、「I love him!」と日本代表MFに対する愛情をアピールした。そして、「(三笘は)もっとゴールが奪えるはずだ。彼と(リバプール戦で2ゴールを決めたソリー・)マーチの2人が今シーズン10ゴールを超えれば、我々は間違いなく上位で終えることができる」と続けて、三笘が持つポテンシャルの高さを認める。
ところが、「マーチもそうだが、三笘は“チームプレーヤー”だ」とデ・ゼルビ監督。三笘のゴールが伸びていない要因もこうしてやんわりと指摘した。
周囲の状況が見えすぎてしまうため、三笘は自分よりスペースのある味方を見つけるとそこにボールを渡してしまう。それをデ・ゼルビ監督は“チームプレーヤー”と表現したのだ。ただゴールを量産するためには、ある程度の“身勝手さ”も不可欠になるだろう。
サイドから中央にカットインしてゴールもアシストも量産した例は、2015-16シーズンにレスター・シティを奇跡の優勝へと導く原動力となったMFリヤド・マフレズが印象深い。その後にマンチェスター・シティに移籍して、世界最高レベルでも通用する選手になるわけだが、マフレズにはゴールを量産するための身勝手さがあった。
アシスト数を増やすことも三笘にとって“勲章”になることは言うまでもない。現在好調のブライトンで、三笘が今後もゴールに絡む仕事をし続けるのは間違いないだろう。
問題はここから。プレミアリーグという世界最高レベルのファイナルサードでも、パスを選択することなく良い意味で独善的にゴールに迫れるか――。三笘はそんな“究極のジレンマ”と常に闘うことになりそうだ。
(森 昌利 / Masatoshi Mori)
森 昌利
もり・まさとし/1962年生まれ、福岡県出身。84年からフリーランスのライターとして活動し93年に渡英。当地で英国人女性と結婚後、定住した。ロンドン市内の出版社勤務を経て、98年から再びフリーランスに。01年、FW西澤明訓のボルトン加入をきっかけに報知新聞の英国通信員となり、プレミアリーグの取材を本格的に開始。英国人の視点を意識しながら、“サッカーの母国”イングランドの現状や魅力を日本に伝えている。