「歴史的に見てもそうはない」カタールW杯決勝 ドイツ人指導者が分析「非常に優れたチェスの一手」
「素晴らしい効果を生み出した」アルゼンチンの起用法
この試合でアルゼンチンはアンヘル・ディ・マリアを起用することで左サイドのワイドな位置で攻撃の起点を生み出し、そこでタメができることで守備ライン攻略の仕掛けを幾重にも狙うことができていた。パプストもそこの重要性を強調する。
「間違いない。あれは非常に優れたチェスの一手となった。4-4-2と4-3-3の変則システムと言えるだろう。メッシがピッチ中央に位置して相手守備を惹き付け、ディ・マリアはタッチラインぎりぎりまでワイドなポジションを取って、パスの出口を作り出していた。パスを受ける動きに優れ、卓越したドリブルとパス能力を持つ彼がサイドにいることで、チームに素晴らしい効果を生み出した」
それにしても決勝のみならず、今大会における全体的な傾向として指摘すべきなのは、これまで以上にアスレティックな部分が選手に要求されているという点だろう。コンタクトに強い選手を揃えている国が多く、“小柄なテクニシャン”の活躍の場はなくなってきている。大活躍した選手となるとメッシぐらいかもしれない。
「どのようにテクニックやアイデアで対抗するのかというのは、どんどん難しくなってきていると感じさせるものはあった。ただ、これが今後のサッカー界の行方を占うほどのトレンドや傾向かというと、それもまた違うのだろう。シーズンを中断して、準備期間もないまま冬の時期に行われるW杯という特別な環境下だったという点は忘れてはならない。それに、サッカーはいつだって魅力的なものであってほしい」
(中野吉之伴 / Kichinosuke Nakano)
中野吉之伴
なかの・きちのすけ/1977年生まれ。ドイツ・フライブルク在住のサッカー育成指導者。グラスルーツの育成エキスパートになるべく渡独し、ドイツサッカー協会公認A級ライセンス(UEFA-Aレベル)所得。SCフライブルクU-15で研修を積み、地域に密着したドイツのさまざまなサッカークラブで20年以上の育成・指導者キャリアを持つ。育成・指導者関連の記事を多数執筆するほか、ブンデスリーガをはじめ周辺諸国への現地取材を精力的に行っている。著書『ドイツの子どもは審判なしでサッカーをする』(ナツメ社)、『世界王者ドイツ年代別トレーニングの教科書』(カンゼン)。