久保建英×ソシエダの好相性 「技術と頭脳」が拠り所…三笘薫と異なる個性が生きるチーム
【識者コラム】リーグ3位と好調をキープするソシエダはテクニカルで安定感が光る
レアル・ソシエダが好調だ。スペインのラ・リーガ第16節ではアウェーのアルメリア戦をダビド・シルバとアレクサンデル・セルロートのゴールで2-0と勝利。FCバルセロナ、レアル・マドリードに次ぐ3位につけている。
ソシエダはアスレティック・ビルバオと並ぶバスクの雄だが、伝統的にパワフルなバスクのサッカーというより、テクニカルで整然としたプレースタイルである。その点、久保建英との相性もいい。
ラ・リーガの3位といっても、そこまで圧倒的に強い印象は実はない。アルメリア戦も前半は膠着状態だった。ただ、ソシエダは自分たちのプレーにブレがなかった。アルメリア戦では久保とセルロートの2トップ、中盤を菱形に組む形だったが、4-5-1の守備ブロックで構える相手に対して、2トップとMF3人の計5人が相手DFとMFのライン間にポジションを取り、執拗にそこへパスを通していた。
4-5ブロックの「間」を取るのはゾーンディフェンス攻略の定石。ただ、そこに5人を投入しているのがソシエダらしいところである。
2センターバック(CB)とピボーテの3人で相手の1トップに対する数的優位を確保してボールをキープし、サイドバック(SB)が左右に幅を取って相手の第二列を広げる。そして2ラインの間に5人。セルロートはトップに入って相手のディフェンスラインを牽制する役割がメインだが、5人の誰もが間で縦パスを受ける技術がある。特にD・シルバはこれのスペシャリストなので、間受けのメインターゲットだ。
D・シルバへクサビが入ったら、左SBのディエゴ・リコが飛び出してサイドをえぐる形が多い。右は久保とミケル・メリーノの連係が効果的。しかし、フィニッシュへのアプローチは固定的ではなく、久保やD・シルバのキープ力やパス能力を生かしたコンビネーションも頻繁に使う。ドリブルでぐいぐい侵入していくタイプはいなくて、パスワークによる崩しに特化している攻め方だった。そのため膠着状態になってしまうこともあるが、じれずに粘り強く冷静に攻め込んでいた。
1点目はD・シルバと久保のコンビネーションからのD・シルバのゴール。2点目は自陣からしっかりとつなぎ切ってセルロートが1人かわして強烈なシュートをねじ込んだ。
久保は現地評価も高いようだ。ただ、ブライトンの三笘薫のような強烈な印象はない。個でねじ伏せていく三笘とはタイプが違っていて、コンビネーションのなかで効果的なプレーをしているからだろう。実際、久保には強靭なフィジカルも圧倒的なスピードもない。それはほかのメンバーも同じで、ソシエダの攻撃は筋肉ではなく技術と頭脳を拠り所にしている。そういうチームだからこそ久保の個性も生きている。
守備も切り替えの速さ、マークの掴みの速さはあるものの、むしろ4バック+ピボーテの5人の組織が安定している。自陣ゴール近くで守るときは4人がゴールエリア幅、それより前ならペナルティーエリア幅、SBが釣りだされた時は3人のDFとMF(ピボーテ)の4人で中央を固めるといった、守備のルールが非常に明確なので大崩れしにくい。
強烈ではないが整理されたテクニカルで安定感のある好チームに仕上がっている。
西部謙司
にしべ・けんじ/1962年生まれ、東京都出身。サッカー専門誌の編集記者を経て、2002年からフリーランスとして活動。1995年から98年までパリに在住し、欧州サッカーを中心に取材した。戦術分析に定評があり、『サッカー日本代表戦術アナライズ』(カンゼン)、『戦術リストランテ』(ソル・メディア)など著書多数。またJリーグでは長年ジェフユナイテッド千葉を追っており、ウェブマガジン『犬の生活SUPER』(https://www.targma.jp/nishibemag/)を配信している。