ノイアーに憧れる大津の守護神、準決勝進出をもたらしたPKストップの“極意” 「プレミアの映像を40試合以上見た」
GK西がPK戦で相手4人目のキックを左に反応してセーブ
前回準優勝の大津(熊本)が2大会連続で準決勝に進んだ。第101回全国高校サッカー選手権大会は1月4日、浦和駒場スタジアムなどで準々決勝4試合が行われ、大津が昨夏の全国高校総体(インターハイ)を制した前橋育英(群馬)をペナルティーキック(PK)戦の末下し、1月7日に東京・国立競技場に集まる4強へと名を連ねた。
大津は初戦の2回戦でも、難敵の浜松開誠館(静岡)と1-1からPK戦にもつれ込み、4-3で勝っていた。
ところが山城朋大監督は、「PK戦を1度やっているのは分が悪い、不利かなと思った」と話した。GKの跳ぶ方向やキッカーが狙うコースを前橋育英がデータとして、収集しているからだ。
浜松開誠館とのPK戦は大津が先蹴りで、主将で1番手のFW小林俊瑛がいきなり失敗した。しかしGK西星哉が相手の4人目のキックを左に反応して弾き飛ばし、3-3のタイとした。大津の5人目・MF浅野力愛が決めて4-3と逆にリードしてプレッシャーを掛けると、西は5人目のシュートも左に反応して阻止したのだ。
80分の中ではこれといったビッグセーブこそなかったが、初戦突破に貢献した守護神が、またまた大一番の前橋育英戦で仕事をした。
山城監督は「初戦は5本とも左に跳んでいたので今日はどうするのかと思ったが、自分の判断でよくやってくれました」と褒めたたえた。
今回のPK戦は後攻。互いに先頭が成功し、西は相手の2番手のキックをまたもや左に横っ跳びしてセーブした。前橋育英は後続の3人が成功したが、大津は5人が確実に沈めて難しい相手を破った。
「PK戦って最後はメンタルですからね、絶対に止めてやるという気持ちが大切なんです」
山城監督の課題研究のゼミで、9月から1年生を対象にPKの研究を始めた。先行と後攻、右利きと左利きの違いなどでどんな特長があるのか、様々なデータをもとにどの方向に蹴る傾向が高いのか、といったことを探っているそうだ。
3年生の西は参加していないが、PKに関する卒論を昨年11月に提出した。「(英国の)プレミアリーグの映像を40試合以上も見ました。今日のPK戦で役に立ったことですか?特にありませんね」と言って笑いを誘った。
西がPKに臨む際の極意は、ボールをセットした相手の視線を見ることだという。「ボールを置いた時に目線が蹴る方向にあります。浜松開誠館はほとんどの選手が目線を合わせたのですが、今日はなかなか見てくれなかったので、どうしようかなって思いました。でもこの前、2本止めているので自信はありました」と淡々とした口調の中にも、たぎる闘争心が伝わってくる。
小学校4年生から一貫してGKを担当してきた187センチの守護神は、当時からドイツ代表GKマヌエル・ノイアーのファンだ。「小学生の頃から、試合前は必ずノイアーの動画を見ます。あこがれのGKなんです」。この時ばかりは勝負師の顔から、無邪気な少年の顔に変わった。
河野 正
1960年生まれ、埼玉県出身。埼玉新聞運動部で日本リーグの三菱時代から浦和レッズを担当。2007年にフリーランスとなり、主に埼玉県内のサッカーを中心に取材。主な著書に『浦和レッズ赤き激闘の記憶』(河出書房新社)『山田暢久火の玉ボーイ』(ベースボール・マガジン社)『浦和レッズ不滅の名語録』(朝日新聞出版)などがある。