「すごい。あんなの初めて見た」 名将も思わず唸った…V候補を撃破したインターハイ王者・前橋育英の底力
優勝候補・昌平に逆転勝ち、組織力で上手だった前橋育英が準々決勝へ
第101回全国高校サッカー選手権大会第4日は1月2日、首都圏4会場で3回戦8試合が行われ、ベスト8が決まった。浦和駒場スタジアムの第1試合では前橋育英(群馬)と昌平(埼玉)の優勝候補同士の関東決戦があり、昨夏の全国高校総体(インターハイ)王者の前橋育英が2-1で逆転勝ちし、1月4日の準々決勝に進んだ。前回準優勝の大津(熊本)と対戦する。
いきなり先手を取られた。前半3分、昌平のFW上野旭陽に守備ラインの背後に進入され、前に飛び出してきたGK雨野颯真がクリアしたが、MF荒井悠汰に30メートル近いロングシュートを無人のゴールに決められた。
とはいえ、失点した時間があまりにも早かっただけに、そう大きなハンディにはならなかった。
失点後にしっかり体制を立て直すと、個の高い技術をベースにした完成された組織力を背景に次第に昌平を押し込み、攻勢の時間帯が長く続いた。前半8分にFW山本颯太の惜しいシュートが外れたが、複数の人を経由したリズミカルな攻撃で難敵を徐々に追い込んでいった。
そんなテンポのいいパス回しから前半13分に昌平ゴールを打ち抜いた。山本が中央やや左からドリブルで進出し、ゴール前のMF小池直矢とパス交換。左サイドで預かると左足でゴール右隅に正確で強烈な一撃を蹴り込んだ。
決勝点は前半からのいい流れを持続していた後半10分だ。山田耕介監督が「この日のために2回戦は休養させた」と言う2年前からの名ボランチ、根津元輝が右サイドバック井上駿也真にチェンジサイドの絶品パスを送ると、鮮やかなダイレクトプレーで右前方の小池に預けた。
山田監督は「井上のあのワンタッチ(パス)はすごい。あんなの初めて見た」と周囲を笑わせたが、小池から得点までのボールの軌道はそのくらい芸術的で、糸を引くような動きだった。小池の右からの最終パスをファーポストで待ち受けたMF青柳龍次郎が、右足を振り抜いて決勝点をものにした。
左の2列目で1回戦から3試合連続で先発。これが初ゴールとなった青柳は「ほっとしました。昨年まではスタンドで応援していて悔しい思いをしてきたので、努力して大舞台に立って昌平みたいな強いチームから得点できて幸せです」と笑みがこぼれっ放しだった。
スコアは2-1だが、完勝に近い内容と言っていい。昌平にほとんど特長と強みを引き出させず、コーナーキックも1本も与えなかった。山田監督は勝因について「攻守の切り替えがポイントでした」と述べると、「相手は密集地帯にドリブルで入って来るから、グループで応対させた。球を持ってくれるので2、3人で(ボール保持者に)対応する時間がある。攻めと守りの切り替えを早くすることを心掛けた」と説明する。
そんな組織的な連係を貫いたことが、前後半で計3本のシュートしか許さず、昌平に持ち味の半分も発揮させなかったのだ。
2アシストの小池は「切り替えの部分を一番意識した」と語り、主将のMF徳永涼も「チーム全体で、グループとしての力を出し切ったから勝てた」と胸を張った。
3回戦でぶつかるのは、何とももったいな好カードだったが、個々の力ではいくらか昌平が上だが、前橋育英がそれを組織力で封じ込んだ。
(河野 正 / Tadashi Kawano)
河野 正
1960年生まれ、埼玉県出身。埼玉新聞運動部で日本リーグの三菱時代から浦和レッズを担当。2007年にフリーランスとなり、主に埼玉県内のサッカーを中心に取材。主な著書に『浦和レッズ赤き激闘の記憶』(河出書房新社)『山田暢久火の玉ボーイ』(ベースボール・マガジン社)『浦和レッズ不滅の名語録』(朝日新聞出版)などがある。