伝統の“背番号14”を受け継ぐ前橋育英キャプテン 優勝候補との対戦に見せる自信「隙と油断をなくせば勝てる」
四学香川西に6-1で快勝、主将MF徳永は2点目の起点に
2021年夏の全国高校総体(インターハイ)を制した前橋育英(群馬)が、同年12月31日の第101回全国高校サッカー選手権2回戦で四学香川西(香川)に6-1で大勝した。5年ぶり2目の優勝を目指す上州のタイガー軍団が、インターハイとの2冠に向けていよいよ牙をむき始めた。その中心にいるのが、主将のボランチMF徳永涼(3年生)だ。
1-0で迎えた後半7分、徳永が自陣ペナルティーエリア内から敵陣にいたFW山本颯太に届けたロングパスは、精密機械のようで少しの狂いもなかった。山本が左サイドから運び、ゴール右隅に流し込んで決勝点となる2点目を奪った。
前橋育英の攻守の中心が徳永であり、MF根津元輝またはMF青柳龍次郎(ともに3年生)と形成するボランチはチームの心臓部だ。
主将はいつも冷静に試合を分析し、快勝しても過大には評価しない。四学香川西戦でもそうだった。「6点取りましたが、それほど上手くいった試合ではなかった。個の力で打開できたから点差は開いたけど、組織としては上手くやれていなかった」といったあんばいなのだ。
インターハイ後に再開したプレミアリーグEASTは、初戦のFC東京U-18戦は引き分けたが、続く青森山田、川崎フロンターレU-18、横浜FCユースにはいずれも0-1で敗れ、3連敗を喫した。危機感を覚えた徳永は「3年生を集めていろいろ話し合いました。ここからチームがまたいい状態になっていったんです」と説明。主将らしい振る舞いはピッチの中ばかりか、外でも大いに発揮されている。
柏レイソルU-15で鍛えられた技術の高さに視野の広さや展開力は一級品で、ハードな守備も周りの助けになっている。
前橋育英の背番号14は、伝統的にJリーグや日本代表で活躍した名手が背負ってきた。山口素弘、松田直樹、青木拓矢、小島秀仁……。14番は山田耕介監督が長崎・島原商高時代に付けていたものだ。
徳永は2年生から伝統の14番を着用。監督の希求の大きさがよく伝わってくるが、ここまでその期待に十分応える働きをしている。
3回戦は優勝候補の昌平(埼玉)が相手だ。今季の対戦はないが、昨季所属していたプリンスリーグ関東では2度戦い、1勝1分けだった。
「昌平は強い。大会前からともに勝ち上がれば、昌平戦が一番肝になる試合と思っていた。最高の舞台でやれるのはとても楽しみですね」
FC東京へ加入する右サイドMF荒井悠汰、鹿島アントラーズに進むDF津久井佳祐については特長をよく把握しているそうだ。荒井とはU-18日本代表で、津久井とは日本高校選抜で一緒だった。「2人のことはチームに伝えたい」と話し、「荒井と(左サイドMF)篠田(翼)は切れと推進力がある。2人が両サイドからドリブルで切れ込んでくるのは分かっている。荒井は(左サイドバックの)山内(恭輔)がマークすることになると思う」と述べた。
ともに優勝候補の一角で、関東を代表するチーム同士の3回戦屈指の好カードだ。高い技術と戦術の応酬になることが予想される。
徳永は「僕らはプレミアリーグで強いチームとやってきて対等にやり合える相手のほうが戦いやすいんです。隙と油断をなくせば、昌平は必ず勝てる相手だと思っている」と強気な姿勢を見せた。「昌平には勝てる」と3度発したあたりに自信のほどが窺えた。
河野 正
1960年生まれ、埼玉県出身。埼玉新聞運動部で日本リーグの三菱時代から浦和レッズを担当。2007年にフリーランスとなり、主に埼玉県内のサッカーを中心に取材。主な著書に『浦和レッズ赤き激闘の記憶』(河出書房新社)『山田暢久火の玉ボーイ』(ベースボール・マガジン社)『浦和レッズ不滅の名語録』(朝日新聞出版)などがある。