“セットプレー”に「出し惜しみしない」 履正社が貫いた全国大会勝利への執念…CKから3発演出
MF名願斗哉の放ったコーナーキックから3点ゲット
日本代表は、ワールドカップ(W杯)ではクロアチア戦まで特別なセットプレーを隠し続けた。セットプレーに対し無策だとの批判を結果で黙らせたが、履正社(大阪)はセットプレーに出し惜しみはない。2022年12月31日に行われた第101回全国高校サッカー選手権大会2回戦で、6-0で盛岡商(岩手)を圧倒した試合後、自らがキッカーを務めたコーナーキック(CK)で3点を演出したMF名願斗哉が話す。
「まず目の前の試合に勝つことが第一なので。1点差だけじゃ物足りないというか。もっと点を重ねるために出し惜しみするのではなくて、全部出して、出した分。その分、また新しいのを考えればいいので。そこは別に出し惜しみしなくていいかなと思います」
名願は後半開始直後の2分にDF西坂斗和のゴールをショートコーナーでアシスト。その西坂の連続ゴールで2-0とした後半18分にもCKをFW古田和之介にグラウンダーで合わせ3点目をアシストした。同26分にも自らが蹴るCKからの流れでDF加藤日向のゴールを演出する活躍を見せている。
履正社はセットプレーの威力を示した形だが、そのセットプレーについて、ある程度隠すべきかどうか。チーム内に議論はあったと古田は話す。
「隠しておこうという案もあったんですけど。でもやっぱり全国大会ですし、そんな余裕あるゲームはないということで(出すことに)」
その結果、4得点中1点がFKから決まった東邦との1回戦は、審判との呼吸が合わずやり直しになった複数のサインプレーを披露。6得点で勝利した盛岡商戦では3点がCKから生まれている。この結果、ここからの対戦相手は履正社のセットプレーを極度に警戒してくるのは確実だが、それはそれでいいのだと古田。
「逆に(トリックプレーを)出すことで相手がそれを警戒してきたり、その逆を突いたプレーもできるので、本当に相手を困らせるプレーをできるように、出し惜しみをせずにやっていこうっていうのは話をしました」
自分たちからセットプレーのバリエーションを見せることで、自分たちが主体的に相手を惑わし、コントロールすることができるということ。ちなみにこの発想については平野直樹監督が相手の裏をかけるのだと述べている。
「1つ流れを見せると、その後グー出すぞという風に見せかけておいて実はパーだよと」
ちなみに、そうやってセットプレーを武器にするために監督以下のコーチングスタッフがやったことはベースを作ることだったという。
「ベースさえ作れば、あとは子供たちで、またそれをバージョンアップしていっているという感じです。相手の特徴だとか、そんなのを考えて、相手のマークのつき方とか、ゾーンでやるのかマンマークなのかというようなことで、子供たちが決めていると思います。こちらから特に大きな何をやりなさいなんていうのは言っていないので。それはもう、子供たち自身がゲームを作っていくものなので。選手自身が決めています」
古田は「いろんなスポーツでブロックだったり、バスケットだったらスクリーンプレーだとか、いろいろなプレーがあって。それはもう盗めるところはほかのチームからも他の競技からも全部盗んでいこうと思ってます」と話すが、そうやってチームメイトが動く事で自分がフリーになるからこそ、シュートに対する責任も生まれるのだと話していた。そして決めきれてよかったと頬を緩ませていた。
「潰れ役がいたり、ブロックする人がいたり、視線を引き付ける人がいたり。本当にいろいろな役割があって、それを全員が完璧にこなして自分がフリーになっている以上は、やっぱり最後を決めるっていうところは責任を持ってやらないといけないと思うので、そこの責任は持って今日は決めきれたので良かったなと思います」
セットプレーの考え方は立場によってさまざまで、相手との力関係もあり一概に正解はない。ただし履正社は目の前の1試合を勝つために、セットプレーを武器とし続けるようだ。
江藤高志
えとう・たかし/大分県出身。サッカーライター特異地の中津市に生まれ育つ。1999年のコパ・アメリカ、パラグアイ大会観戦を機にサッカーライターに転身。当時、大分トリニータを率いていた石崎信弘氏の新天地である川崎フロンターレの取材を2001年のシーズン途中から開始した。その後、04年にJ’s GOALの川崎担当記者に就任。15年からはフロンターレ専門Webマガジンの『川崎フットボールアディクト』を開設し、編集長として運営を続けている。