「俺にボールをくれたら絶対に決めてやる」 前橋育英の158cmアタッカーが同僚に宣言していたゴール
前橋育英の10番・高足善が日章学園戦でアピール
今夏のインターハイで2度目の優勝を果たした前橋育英(群馬)が、難敵の日章学園(宮崎)に2-1で逆転勝ちし、2回戦に進んだ。同点ゴールを決めたのは背番号10、身長158センチの小兵FW高足善だった。昨年もここ一番で勝負強さを発揮したが、3年生になった今シーズンも決定力の高さは健在だ。
プレミアリーグEASTに所属するだけに前橋育英はプレーの速さと判断の早さ、1対1の局面での強さに戦況を正しく読み取る能力を併せ持っている。
前半からマイボールにする機会が多く、昨年からの主力である主将のボランチ徳永涼が気の利いた球出しを披露し、両サイドを中心に相手守備の背後を狙うなど多彩なアタックで主導権を握った。
しかしボールを支配し、多くの決定的なシーンを作ったものの、シュートの正確性を欠いて得点できないでいた。高足は「前半からいい形を作ってゴールに迫ったが、外してばかりいた。どうやって打開していいのか分からなかった」と悩み続けた前半の胸中を明かした。
後半10分、日章学園にフリーキック(FK)を決められて失点。エースは「3年間シュート練習ばかりしてきたので、自分が決めてやろうと思った」と気持ちを新たにした。
後半19分、徳永の縦パスをFW小池直矢がダイレクトではたき、このボールを高足が右足でゴール右隅に正確な一撃を蹴り込んだ。「あのシーンで決めないと勝てないと思った。あの角度で狙えるのはニアサイドだけで、(ファーサイドは)DFがいて駄目でした」と難しい体勢からしっかり仕留めるあたりは、さすがは“タイガー軍団”の背番号10だ。
前回大会の高足はスーパーサブの切り札的存在だった。6-0で圧勝した三重(三重)との2回戦では後半20分から出場し、同35分に6点目をゲット。鹿島学園(茨城)を2-1で下した3回戦では前半アディショナルタイムから送り出され、後半17分に先制点をものにする。PK戦突入かと思われた同点の同39分にも、味方のシュートを相手GKが弾くと、そのこぼれ球に素早く反応して決勝点を押し込んでいる。
徳永は言った。
「善は、『俺にボールをくれたら絶対に決めてやる』と宣言していたんですよ」
前半5分の決定機をはじめ、先制機を逃していたとあり、山田耕介監督は「同点ゴールの前にも何度か(得点するチャンスは)あったのにね」と笑いながらも、「きちんと決めてくれますよね。スペースが空きそうな場所や、セカンドボールがどこに落ちるとか、そういう予測ができる選手なんですよ」と高足の特長、強みをこう説明する。
高足は2017年度の第96回全国高校選手権で前橋育英が初優勝した当時のエースで、大会得点王にも輝いたFW飯島陸(現J2ヴァンフォーレ甲府)に憧れて入学した。「うちの10番は歴代すごい選手ばかりなので、自分がチームを引っ張っていかないといけない。初戦に勝てれば優勝を目指せると思った」と5大会ぶりの頂点に向け、まずは所期の目標を果たした。
河野 正
1960年生まれ、埼玉県出身。埼玉新聞運動部で日本リーグの三菱時代から浦和レッズを担当。2007年にフリーランスとなり、主に埼玉県内のサッカーを中心に取材。主な著書に『浦和レッズ赤き激闘の記憶』(河出書房新社)『山田暢久火の玉ボーイ』(ベースボール・マガジン社)『浦和レッズ不滅の名語録』(朝日新聞出版)などがある。