適性ポジションでプレーさせる重要性 指導者の心がけ次第で変わるサッカー選手の運命
中体連や高体連なら致し方ないが…プロの育成を目指すアカデミーは事情が異なる
10年ほど前には、Jリーグユース選抜の両CBを160センチ台の選手が務めたことがあった。これが中体連や高体連なら致し方ない部分もある。だがプロの育成を目指すアカデミーが、チームの勝利のために最適ではないポジションで使い続けるのは本末転倒だ。
もちろんプロになれば、日本に限らずチーム事情でポジションを動かされるケースもある。ボルフスブルクに入団した頃の長谷部誠が右サイドバック(SB)で起用され「プレーできるのはいいことだけど……」と苦笑していたのも覚えている。その後トップ下、ボランチなどを経由して、最終ラインに降りてきたから、多様な経験が必ずしも無駄になるわけではない。
遠藤が辿った足跡を見ても、指導者がどのレベルを想定して使うかで、選手の運命は大きく変わってしまう。遠藤はCBもJリーグなら十分に優秀な選手だった。しかしボランチに挑むと、短期間でブンデスリーガのデュエル王にまで上り詰めた。
FC東京のアルベル監督は、長友佑都を「日本で最高のSB」と称えている。しかし左サイドはバングーナガンデ佳史扶を優先し、長友は日本代表とは異なる右サイドで起用することが多い。カタールW杯を見渡しても、左SBはもちろん、CBの左側にもなるべくレフティーを配するのが国際的な潮流だ。右利きの長友は「世界一の左SB」を目指したが、右SBのほうが近道だったのかもしれない。
(加部 究 / Kiwamu Kabe)
加部 究
かべ・きわむ/1958年生まれ。大学卒業後、スポーツ新聞社に勤めるが86年メキシコW杯を観戦するために3年で退社。その後フリーランスのスポーツライターに転身し、W杯は7回現地取材した。育成年代にも造詣が深く、多くの指導者と親交が深い。指導者、選手ら約150人にロングインタビューを実施。長男は元Jリーガーの加部未蘭。最近選手主体のボトムアップ方式で部活に取り組む堀越高校サッカー部のノンフィクション『毎日の部活が高校生活一番の宝物』(竹書房)を上梓。『日本サッカー戦記~青銅の時代から新世紀へ』『サッカー通訳戦記』『それでも「美談」になる高校サッカーの非常識』(いずれもカンゼン)、『大和魂のモダンサッカー』『サッカー移民』(ともに双葉社)、『祝祭』(小学館文庫)など著書多数。