適性ポジションでプレーさせる重要性 指導者の心がけ次第で変わるサッカー選手の運命

小学生からセンターバックとして育てられた板倉滉【写真:徳原隆元(FOOTBALL ZONE特派)】
小学生からセンターバックとして育てられた板倉滉【写真:徳原隆元(FOOTBALL ZONE特派)】

【識者コラム】チーム事情より将来最も大きな可能性を秘めたポジションでの起用を

 カタール・ワールドカップ(W杯)が開幕する前に、川崎フロンターレのアカデミー時代に日本代表4選手の指導をした高崎康嗣氏に話を聞く機会を得た。

 とりわけ印象に残ったのは、小学生でチームに加入した板倉滉のポジション選択についてのエピソードだった。

「本当に明るく元気な子で、身体も大きいほうなので本人はFWをやりたがっていました。でも、ほかの子にはない前への推進力があり、キックが綺麗なので配球などを考えるとうしろからゲームを作っていくほうがいいかな、と。それにジャンプもよく浮いているのでうしろから跳ね返す絵が描けたんです。セットプレーだけではなく、ミドルシュートも含めてゴールも目指せるセンターバック(CB)はトレンドになるとも考えて、うしろのポジションで育てていこうと決めました」

 FWもやらせればできるようになるとは思ったが、CBやボランチのほうがより高みを目指せると描いての選択だったそうである。この選択の正しさは、今の板倉の価値が十分に証明している。

 確かに個々の適性ポジションを見極めるのは簡単ではない。だがもはや大半のサッカー少年たちは、Jリーガーを通り越して世界に羽ばたくことを夢見ている。やはり育成の指導者なら、チーム事情より将来最も大きな可能性を秘めたポジションでの起用を心がけるべきだと思う。

 例えば、遠藤航は湘南ベルマーレのユース時代から将来を嘱望されてきた。だが25歳で欧州へ渡るまで、国内では主にCBとして起用され続けてきた。ちょうど在籍した湘南や浦和レッズが3バックを選択することが多かったことも影響した。しかし178センチの遠藤が欧州に進出した場合や4バックを使用する日本代表で、CBのスタメンに割り込んでいく可能性は極めて低い。世界を目指すなら当然ボランチという発想が浮かばないほうがおかしいし、本人も遅ればせながら忸怩たる想いでボランチに挑戦できる環境へ動いたはずだ。

 それからの急変貌ぶりは周知のとおりだが、もし遠藤が最初からボランチでプレーしていて前回のロシアW杯に参加していたらどうだっただろうか。すでにベスト8の壁は4年前に突破できていたかもしれない。北京五輪を目指すチームに初めて参加した頃の香川真司はまだボランチでプレーしていて、結局最適解を探してくれたのはボルシア・ドルトムント時代のユルゲン・クロップだった。

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加部 究

かべ・きわむ/1958年生まれ。大学卒業後、スポーツ新聞社に勤めるが86年メキシコW杯を観戦するために3年で退社。その後フリーランスのスポーツライターに転身し、W杯は7回現地取材した。育成年代にも造詣が深く、多くの指導者と親交が深い。指導者、選手ら約150人にロングインタビューを実施。長男は元Jリーガーの加部未蘭。最近選手主体のボトムアップ方式で部活に取り組む堀越高校サッカー部のノンフィクション『毎日の部活が高校生活一番の宝物』(竹書房)を上梓。『日本サッカー戦記~青銅の時代から新世紀へ』『サッカー通訳戦記』『それでも「美談」になる高校サッカーの非常識』(いずれもカンゼン)、『大和魂のモダンサッカー』『サッカー移民』(ともに双葉社)、『祝祭』(小学館文庫)など著書多数。

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