【W杯】決勝の舞台で露わ…アルゼンチン“神の子”・メッシは歓喜のスタジアムで何を見たのか?
延長戦以降も両エースが強烈な光彩を放つ
ここから試合は一気にヒートアップし、両エースが強烈な光彩を放つことになる。ムバッペの同点弾からフランスは完全に息を吹き返し攻勢に出る。前半で勝敗の趨勢が見えかけていたアルゼンチンは急速に勢いを失い防戦に追われることになる。
それでも試合は90分間を戦い抜いても決着が付かず延長戦へと突入。白熱する試合のスコアを動かしたのはやはりあの“男たち”だった。延長後半4分に、ラウタロ・マルティネスのシュートをフランスGKウーゴ・ロリスが懸命に防ぐが、こぼれ球をメッシが詰めてアルゼンチンが再びリードを奪う。
もはや闘争本能だけでボールを前線に運び、守る側は身体を張って防ぐ戦術レベルを超えた戦いとなった延長後半13分、この試合で2度目のPKのチャンスを得たフランスは、ムバッペが決めてゴール。ハットトリックを完成させ、試合を振り出しに戻す。
世界一を賭けた飽くなき勝利を追求する選手たちの戦いは、ついにPK戦で決着をつけることになった。ここでアルゼンチンGKエミリアーノ・マルティネスがフランスの2人目のキックをストップ。続く3人目も失敗し、対するアルゼンチンは4番目のキッカーのゴンサロ・モンティエルを迎える。
ここでキッカーのモンティエルが決めればアルゼンチンの優勝という場面で、ゴールへと視線を向けるメッシをファインダーに捉える。メッシの隣で肩を組んでいたマルティネスはうつむき加減で十字を切り祈る。そしてモンティエルがPKを成功させるとメッシはキッカーとGKに向かって歓喜する仲間たちに追随せず、ついにやってきた瞬間を全身で受け止めるようにその場で膝付き、喜びを表した。
アルゼンチンは36年ぶり3回目の優勝をカタールの地で決めた。メッシは全権を与えられ、彼を中心にチームは作り上げられてきた。そしてエースナンバー10番を背負う男はその期待をプレーで応え、チームは纏まりアルゼンチンは頂点へと到達した。
表彰式でワールドカップを手に仲間に迎えられるメッシ。これまで手に入れてきた数々の栄光のなかで唯一残されていたタイトルを獲得したのだ。そう、自らの手で。この勝利は誰もが認めるメッシの勝利だった。
試合後、メッシは仲間たちと喜びを分かち合うと、表彰台に座り家族とともに時間を共有する。もしかして、いやおそらくW杯決勝のこの試合はメッシにとって、代表選手として最後のときになるのではないだろうか。
1か月にも及ぶ大会で幾度となく望遠レンズを装着したカメラをメッシに向け、多くのシャッターを切ってきた。そのなかでもっとも印象に残ったのは、アルゼンチンとして最高の喜びに包まれたメッシが、家族とともに過ごす姿だった。
FOOTBALL ZONE特派・徳原隆元 / Takamoto Tokuhara
とくはら・たかもと/1970年東京生まれ。22歳の時からブラジルサッカーを取材。現在も日本国内、海外で“サッカーのある場面”を撮影している。好きな選手はミッシェル・プラティニとパウロ・ロベルト・ファルカン。1980年代の単純にサッカーの上手い選手が当たり前のようにピッチで輝けた時代のサッカーが今も好き。日本スポーツプレス協会、国際スポーツプレス協会会員。