【W杯】優勝候補ブラジルが敗退 力尽きたネイマール…ファインダー越しの姿から感じたこと
【カメラマンの目】ネイマールは人目をはばからず涙を見せた
ワールドカップ開催地のカタールの強い日差しにも負けないほど強烈な光彩を放っていたブラジル代表がベスト8で散った。ネイマールを筆頭にしたスーパーテクニシャンによる圧倒的な攻撃力と、熱きハートで戦う洗練された守備で大会の主役として勝ち進んできたサッカー王国は、クロアチア代表の粘り強いサッカーに屈しカタールの地を去ることになってしまった。
ラウンド16でともに極東アジアの国を破り勝ち上がってきたブラジルとクロアチアの一戦はPK戦まで縺れ込む激しい攻防となった。試合序盤、ボールを保持したのはクロアチア。突破口を素早いパス交換から探すクロアチアに対して、ブラジルは前線からの守備でチャンスの糸口を作らせない。
対して序盤は受け身に回っていたブラジルは、ネイマールが味方選手に対してジャスチャーを交えて指示を出す。彼の言葉が聞こえたわけではないが、そのジェスチャーから察するにいったん、自分にボールを預けろと言っているようだった。そして手で半円を描き、縦に出ろという仕草をしていた。おそらく自分が中盤でボールをキープして時間を稼ぐから、その間に両サイドに出ろ。そこにパスを出すという意味だったと思う。実際、ネイマールはストライカーというより、中盤を主戦場としゲームメーカーの仕事をこなしていく。
この戦術によってブラジルは徐々にペースを握っていく。しかし、クロアチアの堅い守備はそう簡単には綻びを見せない。しかもルカ・モドリッチが効果的なパスを中盤の深い位置から供給し、逆襲の機会を伺う。モドリッチはここにきて前線での激しいファイトから、一歩引いた中盤の底から効果的なパスを繰り出す選手へと変貌を遂げている。さらに、味方が奪ったボールを受けて前線に送るのではなく、自らが果敢に相手選手に挑みボール奪取を行う。この守備も行い、攻撃の起点となるプレーが劣勢のクロアチアにあって、勝機を生み出す原動力となるのだった。
ただ、ブラジルはやはり本物であり、ネイマールもやはりスターだった。延長前半の終了間際にエース・ネイマールがゴール。粘るクロアチアを振り切り、これで勝負はあったかに見えた。
ここでクロアチアが並のチームだったら、失点により意気消沈しこのままブラジルの勝利に終わっていただろう。しかし、モドリッチを中心とした派手さはないが堅実で劣勢にも動じない強いメンタルを秘めた集団のクロアチアは、自分たちのできるプレーを淡々と続ける。ブラジルの攻撃を激しいディフェンスで跳ね返し、カウンター攻撃に望みを託す。そしてついに延長後半13分にブルーノ・ペトコヴィッチのゴールで同点とする。運命はPK戦へと委ねられ、クロアチアが激闘を制したのだった。
試合後、人目をはばからず涙を見せたネイマール。ファインダーを通してその力尽きた姿を見るとすべてが終わったという印象を受けた。彼としてはこれが最後のW杯と心に期して臨んでいたのだろうか。
ただ、サッカーの世界は勝敗をはじめ、なにが起きても不思議ではない。サッカーへの飽くなき追求はどんなことでも可能にする。ネイマール自身がまだセレソンの舞台で戦う気力を持ち続けることができれば、4年後もこの舞台で彼の雄姿を見ることは決して不可能なことではない。
(FOOTBALL ZONE特派・徳原隆元 / Takamoto Tokuhara)
FOOTBALL ZONE特派・徳原隆元 / Takamoto Tokuhara
とくはら・たかもと/1970年東京生まれ。22歳の時からブラジルサッカーを取材。現在も日本国内、海外で“サッカーのある場面”を撮影している。好きな選手はミッシェル・プラティニとパウロ・ロベルト・ファルカン。1980年代の単純にサッカーの上手い選手が当たり前のようにピッチで輝けた時代のサッカーが今も好き。日本スポーツプレス協会、国際スポーツプレス協会会員。