【W杯】PK戦での敗退に「これがサッカー」 楢﨑正剛氏が語る超えられなかった壁の高さとは

運の要素があるものの、GKの視点で振り返るPKは「タイミングが取りやすかった」

 勝敗を決したPK戦について、サッカーファンのみならず多くの議論が巻き起こるのは仕方ありません。これもサッカーの一部で、勝ち上がりを決めるためのルールです。

 元選手の立場で唯一言えるとすれば、PK戦はくじ引きではありません。運の要素が切り離せないとしても、技術面の練習ができますし、精神面の鍛練を積むこともできます。やれることを最大限やらなければいけないのは、通常のプレーと同じなのです。

 ペナルティーマークからゴールまでの距離は約11m、ゴールマウスの大きさは幅7m32cm、高さが2m44cm。キッカーがパーフェクトなシュートを打てばGKが反応して止めることは難しいでしょう。

 基本的に反応して動きたいですが、ボールを蹴ったあとに飛んでいては間に合わないのでGKは予測します。助走や視線、身体の向きや角度、それから軸足。得られる情報すべてを根拠にしてセービングの方向を決める。あてずっぽうで飛んで止められるケースもありますが、少しでも確率を上げるためにやり続けないといけません。

 それらを踏まえてキックの質を振り返ると、日本のキックは総じて駆け引きがあまりなくGKにとってタイミングが取りやすかった。強いシュートでしっかりとコースを突いていれば決まるのですが、いずれも甘かった感は否めません。想像以上の責任と重圧がかかるシチュエーションなのは百も承知です。ただ、そのプレッシャーや責任感からか、イメージしていたキックではなかったと感じます。PK戦への準備という部分でもう少しやれることが個人でもチームでもあったかもしれないと感じてしまいますが、これも結果論かもしれません。

 クロアチアのキッカーは自信満々に見えましたし、先行の日本が1本目と2本目を連続で外したことも大きかった。外した側としてはだんだんとプレッシャーが重くのしかかってきますし、リードしている側は気持ちがラクになっていく。特にストップしたGKは気持ちがノッてきます。ヒーローに近づいていることを体感できる特別な時間でもあります。

藤井雅彦

ふじい・まさひこ/1983年生まれ、神奈川県出身。日本ジャーナリスト専門学校在学中からボランティア形式でサッカー業界に携わり、卒業後にフリーランスとして活動開始。サッカー専門新聞『EL GOLAZO』創刊号から寄稿し、ドイツW杯取材を経て2006年から横浜F・マリノス担当に。12年からはウェブマガジン『ザ・ヨコハマ・エクスプレス』(https://www.targma.jp/yokohama-ex/)の責任編集として密着取材を続けている。著書に『横浜F・マリノス 変革のトリコロール秘史』、構成に『中村俊輔式 サッカー観戦術』『サッカー・J2論/松井大輔』『ゴールへの道は自分自身で切り拓くものだ/山瀬功治』(発行はすべてワニブックス)がある。

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