【W杯】PK戦での敗退に「これがサッカー」 楢﨑正剛氏が語る超えられなかった壁の高さとは

日本代表はPK戦の末敗戦【写真:ロイター】
日本代表はPK戦の末敗戦【写真:ロイター】

120分間戦って1-1の結果は妥当

 夢への扉は確実に開いていた。そこに広がる“新しい景色”が少し見えていただけに、くぐれなかったことが悔しい。それがサッカーファンの総意だろう。カタールで行われているワールドカップ(W杯)の決勝トーナメント1回戦が日本時間12月5日の深夜に行われ、日本代表は前回ファイナリストのクロアチア代表に敗れた。前半終了間際に前田大然がゴールを決め、先制したにもかかわらず、後半立ち上がりに追い付かれると、1-1のまま延長戦での決着がつかず。日本はPK戦の末に、またしてもベスト16で涙を呑んだ。かつて自身も同じ悔しさを味わったことがある元日本代表GKの楢﨑正剛氏が大会を総括した。(取材・文=藤井雅彦)

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 勝てる可能性があれば、負ける可能性もある試合でした。

 名前だけを見ると多くの人がドイツ代表やスペイン代表よりも力が劣るのではないかと想像していたクロアチアですが、試合後の感想としてはやはりタフで嫌らしさや組みづらさを強く感じるチームでした。上手さ、速さ、強さに加えて、グループ戦術もしっかりしている。前回大会準優勝の実績は伊達ではなかった。

 それと強豪国から連続して大金星を挙げて勝ち上がってきた日本は警戒すべき対象だったのでしょう。クロアチアは自分たちのサッカーを貫くだけでなく、相手の良さを消すことにもしっかりと注力していました。

 顕著な例が、キーマンになっていた三笘薫選手への対応です。日本はなるべく早く三笘選手にボールを預けて打開を図りたかったのですが、クロアチアはその預けるボールに巧みに制限をかけてきました。ボールが入ってからも縦だけでなく横のコースを消し、囲ってくるような配置を敷く。さすがの対応力でした。プレスをかいくぐる、多少アバウトな長いボールを使っていたこともそうでした。

 失点場面を振り返ると、日本に大きなエラーがあったわけではありません。改善点としてはクロッサーに対してもう少しプレッシャーをかけられたのではないか、あるいはシュートを放った選手にボールを触らせない対応ができたのでは、ということは言えるでしょう。ですが、ヘディングした地点からゴールまでの距離を考えると、いずれもそこまで致命傷になるような対応ではなかったと思います。

 それよりもシュートの質がとても高かった。叩きつけるようなヘディングでワンバウンドさせ、スピードを加速させるようなシュートでした。ゴールまであれだけの距離があっても強さとコースを意識して打てるのはヘディング技術の高さがあるからこそ。一見ピンチでもなさそうな状況からでも一気に決め切る選手のレベルの高さを感じました。

 素晴らしい得点だったのは日本も同じで、グループリーグではあまり活用しなかった変化をつけたセットプレーからゴールネットを揺らしました。先制してからの戦い方や追加点を奪えなかったという課題は残ったとはいえ、延長戦までの120分間を戦って1-1というスコアは悲観すべきではなく、妥当なものでした。

藤井雅彦

ふじい・まさひこ/1983年生まれ、神奈川県出身。日本ジャーナリスト専門学校在学中からボランティア形式でサッカー業界に携わり、卒業後にフリーランスとして活動開始。サッカー専門新聞『EL GOLAZO』創刊号から寄稿し、ドイツW杯取材を経て2006年から横浜F・マリノス担当に。12年からはウェブマガジン『ザ・ヨコハマ・エクスプレス』(https://www.targma.jp/yokohama-ex/)の責任編集として密着取材を続けている。著書に『横浜F・マリノス 変革のトリコロール秘史』、構成に『中村俊輔式 サッカー観戦術』『サッカー・J2論/松井大輔』『ゴールへの道は自分自身で切り拓くものだ/山瀬功治』(発行はすべてワニブックス)がある。

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