監督に最も必要なものは何? オシムが考える理想のチームマネジメントとは
マラソンは嫌いでもサッカーなら走れる
──不満を持っている選手がいたら?
「不満がある選手を呼んで叱るのは逆効果だ。なぜ、この練習をする必要があるか、または、なぜ自分は試合に出られないか、などを理解できるように手助けをしてやらないと。チーム内での自分の位置を客観的に理解すること。何を改善すれば先発で出られるか、自分の目標を持つことにもなる。そこがクリアできれば喜んで練習をするようになる」
──チーム作りの基礎はあくまで練習だということですね。トレーニングのメニューも、オシムさんは独特で多彩でした。
「次の試合を想定してやっていただけだ。自信がなさそうだと感じたら、大学生相手に練習試合を組んで大勝させる。簡単すぎたら相手を12人にしてもらったり、こちらが全員ワンタッチで試合するなど条件を変えた。疲れがたまっているならリクリエーション的な練習でリラックスさせる。フィジカルが不十分だと思ったら走る量を増やす。ただし必ずボールを使い、ゲーム形式で『走らないといけない状況』を作ってやる」
──走るだけの練習は日本代表でもありませんでしたね。
「マラソンは嫌いでも、勝ち負けのはっきりするゲームになると疲れていても走る。サッカー選手の本能を活用するわけだ」
──クラブチームと代表チームでは、やり方はかなり変わりますか?
「もちろん違う。代表では練習の日程も少ないし、一度解散すると次に会うのは数週間先だ。選手にはネガティブな気持ちを引きずったまま帰ることがないように心がけたが、いつもうまくいくわけではない。対戦相手を意識した練習は同じだが、ふだんは敵味方の選手同士のコンビネーション、所属チームと違うやり方の戦術への理解など、代表ならではの難しさがある」