【W杯】最新カメラをもってしても追いつけない 天才メッシのフィニッシュプレーに感じた凄み

勝利を喜ぶアルゼンチン代表FWリオネル・メッシ【写真:徳原隆元(FOOTBALL ZONE特派)】
勝利を喜ぶアルゼンチン代表FWリオネル・メッシ【写真:徳原隆元(FOOTBALL ZONE特派)】

【カメラマンの目】オーストラリア戦で生まれたメッシのゴールに脱帽

「あれでゴールしてしまうのか」

 カタール・ワールドカップ(W杯)決勝トーナメント1回戦、その時、アルゼンチン代表の攻撃を必死に防いでいた、オーストラリア代表の選手に向かって指示を出す監督のグラハム・アーノルドにカメラを向けていた。

 それが分かった時はすでに遅かった。ゴール裏から距離560ミリの望遠レンズにオーストラリアゴールへと肉薄してきたリオネル・メッシを捉える。ファインダーに大写しになったメッシの前には立ちはだかるように3人の守備陣。高速で切るシャッターのピントが合ったのは1枚だけだった。メッシのフィニッシュプレーは最新のカメラをもってしても追いつけなかったということだ。

 ほとんど振り幅のないキックから放たれたシュートは、DFの股を抜き、さらに懸命に横っ飛びで防ごうとしたGKマシュー・ライアンの右手をすり抜けるようにゴールへと吸い込まれていった。前半、オーストラリア守備陣の厳しいマークに遭って沈黙していたメッシは、たったワンプレーでチームに漂う閉塞感を吹き飛ばすことに成功した。

 いまさら説明するまでもないが驚くべきシュート技術である。強烈なシュートではない。いや、パスかと思えるほどの振り幅の狭いキックだった。しかし、その放たれたシュートは確実にオーストラリアゴールへと突き刺さった。冒頭の言葉はメッシのシュートが決まった時、驚きとある意味その圧倒的な技術に呆れてしまう思いがない交ぜになって、心の中に浮かんだものだ。

 オーストラリアとしてはアルゼンチンのテクニックにパワーで対抗しようと試みたのは、決して間違えではなかった。実際、前半35分にゴールを決めるまで、メッシはハードマークに苦しみ仕事らしい仕事をしていなかった。しかし、やってきたチャンスを確実にモノにするここ一番の技術は目を見張る。やはりメッシは常人ではなかった

【写真:徳原隆元(FOOTBALL ZONE特派)】
【写真:徳原隆元(FOOTBALL ZONE特派)】

 試合は後半12分にフリアン・アルバレスのゴールでアルゼンチンがリードを広げる。その後、1点を返されたもののメッシ率いる南米の雄はベスト8進出を決めたのだった。

 試合後、勝利に気勢が上がるサポーターの前で、喜びを分かち合ったアルゼンチンの選手たち。メッシは仲間の先頭に立ってサポーターの声援に応えていた。しかし、ロドリゴ・デ・パウルやラウタル・マルチネス、アンヘル・ディ・マリアらと熱い抱擁を交わすと、すぐにいつものあまり感情を表さないメッシへと戻っていく。歓喜する仲間たちの輪から一歩引いて喜びを表現していた。だが、すぐに仲間に促されて輪の中心に入る。やはりこの男はどんな時でも、アルゼンチンの中心で輝いていなければならない。

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FOOTBALL ZONE特派・徳原隆元 / Takamoto Tokuhara

とくはら・たかもと/1970年東京生まれ。22歳の時からブラジルサッカーを取材。現在も日本国内、海外で“サッカーのある場面”を撮影している。好きな選手はミッシェル・プラティニとパウロ・ロベルト・ファルカン。1980年代の単純にサッカーの上手い選手が当たり前のようにピッチで輝けた時代のサッカーが今も好き。日本スポーツプレス協会、国際スポーツプレス協会会員。

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