【W杯】「VARがあったからこそ」 三笘のスーパーアシスト、元主審・家本氏が“恩恵”実感「経験者から見ても…」
【専門家の目|家本政明】スペイン戦で三笘がラインぎりぎりで折り返し、FIFAも公式見解を示す
森保一監督率いる日本代表は現地時間12月1日、カタール・ワールドカップ(W杯)グループリーグ第3節でスペイン代表と対戦し、2-1の逆転劇を演じてみせた。元国際審判員・プロフェッショナルレフェリーの家本政明氏は、日本の決勝ゴールにつながったMF三笘薫のアシストシーンを振り返った。(取材・構成=FOOTBALL ZONE編集部・金子拳也)
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スペインとの一戦に臨んだ日本は前半11分に失点。エンド変わって後半3分、前線からのプレスでボールを奪った流れでMF堂安律の豪快なミドル弾で同点に持ち込むと、その3分後に三笘の折り返しからMF田中碧がゴールを決めた。ただ三笘のタッチがゴールラインを割っていたのかどうかが際どく、ビデオ・アシスタント・レフェリー(VAR)が時間をかけて確認。最終的にインプレーが認められ、日本の勝ち越しとなった。
対戦国のスペインやグループ敗退となったドイツなど各国メディアからは、ボールが外に出ていたのではないかと懐疑的な声が上がっていたが、国際サッカー連盟(FIFA)が公式声明を発表。実際にVARが確認した映像が共有され、正当性を訴えた。
このシーンについて家本氏は「まず現場のレフェリーは得点ではなくゴールキックと判断しました。その後VARがチェックし、判定が変わりました」と流れを説明。そのうえで、正確な判定を導くためには、正しい位置からの確認が必要だと説く。
「真上からの映像でVARがチェックしていると思います。真上からだとゴールラインとゴールポストがちょうど重なって見えます。それが正しい確認位置ですね。競技規則の第9条には、ボールの“アウトオブプレー”について記載されていて、『ボールがラインを完全に越えた』時にアウトオブプレーになると明記されています。今回は“センチ”ではなく“ミリ”単位の事象だったので、この証拠を探すのに時間がかかったのでしょう」
この判定が難解だったのは、ほかにも要因があると家本氏は続ける。「先ほど話したように、見る角度によって目の錯覚があったりするので、VAR側は丁寧に確認したと思います。経験者から見ても、時間がかかるだろうというのは安易に想像できます」と説明している。
最後に家本氏は「この感動の決勝ゴールは、VARがあったからこそ認められたものです。本当にVARには感謝しかないですね」と、日本の勝利を呼び寄せた判定を振り返った。
家本政明
いえもと・まさあき/1973年生まれ、広島県出身。同志社大学卒業後の96年にJリーグの京都パープルサンガ(現京都)に入社し、運営業務にも携わり、1級審判員を取得。2002年からJ2、04年からJ1で主審を務め、05年から日本サッカー協会のスペシャルレフェリー(現プロフェッショナルレフェリー)となった。10年に日本人初の英国ウェンブリー・スタジアムで試合を担当。J1通算338試合、J2通算176試合、J3通算2試合、リーグカップ通算62試合を担当。主審として国際試合100試合以上、Jリーグは歴代最多の516試合を担当。21年12月4日に行われたJ1第38節の横浜FM対川崎戦で勇退し、現在サッカーの魅力向上のため幅広く活動を行っている。