【W杯】敵対しても「仲間」 アルゼンチン×メキシコで感じた“全身全霊の共鳴”
【カメラマンの目】真の戦える選手が全身全霊で勝負するがゆえに生まれる好ゲーム
おかしな言い方かもしれないが11月26日、カタール・ワールドカップ(W杯)のグループリーグC組第2戦で対戦したアルゼンチン代表対メキシコ代表のピッチに立った選手たちは敵、味方の区別なく全員が「仲間」だった。
8万8966人の大観衆で埋まったルサイル・スタジアムは、試合前から両国のサポーターたちが発する声援で熱を帯びていた。アルゼンチン、メキシコサポーターともに陽気に、そして力強くそれぞれのスタイルで母国への思いを声援という形で披露する。彼ら、彼女らの母国への愛はスタジアム全体に伝播し、熱狂の空間を作り出していった。
見れば男性1人、女性2人のアルゼンチンのグループがいた。3人の中の年下に見える女性がW杯の圧倒的な雰囲気に感極まったのか涙を浮かべていた。スタジアムの雰囲気は最高潮。南米の雄対中南米の曲者との試合は熱狂の中で切って落とされた。
冒頭の敵対する選手たちを仲間と称した理由は、ピッチに立った彼らの試合に臨む姿勢が共鳴していたからだ。
全選手が高い基本技術を持ち、90分間を走り抜くフィジカルも兼ね備えている。相手を倒す強い意志を持って全力でプレーする。タフな戦いのなか、やわな選手はたとえ味方でもゲームの中に入っては来られない。そして敵でも戦える選手には敬意を払うように、遠慮なくぶつかり合っていた。そんな真に戦える選手だけが全身全霊で勝負をするのだ。好ゲームにならないはずがない。
試合はアルゼンチンが優勢に進めていくがメキシコも簡単には参ったとは言わない。局面で激しいつばぜり合いを繰り返す。小柄なリオネル・メッシもメキシコのタイトなマークを跳ね返し、守備に回っても激しくファイトしていた。どの選手もちょっとやそっとのファウルでは動じず、果敢にゴールを目指していた。
結果は後半19分にメッシがゴールしてアルゼンチンが先制。同42分にも得点して決着をつけた。初戦の敗戦から一転してこのメキシコとのタフな戦いを制したことで、アルゼンチンのチーム状態は上昇に転じたように思う。初戦を完勝したブラジルはネイマールの負傷が気がかりだが、チームとしての完成度は高い。フランスも早々に決勝トーナメント進出を決めた。大会はこの3か国を中心に回っていきそうだ。
(FOOTBALL ZONE特派・徳原隆元 / Takamoto Tokuhara)
FOOTBALL ZONE特派・徳原隆元 / Takamoto Tokuhara
とくはら・たかもと/1970年東京生まれ。22歳の時からブラジルサッカーを取材。現在も日本国内、海外で“サッカーのある場面”を撮影している。好きな選手はミッシェル・プラティニとパウロ・ロベルト・ファルカン。1980年代の単純にサッカーの上手い選手が当たり前のようにピッチで輝けた時代のサッカーが今も好き。日本スポーツプレス協会、国際スポーツプレス協会会員。