「僕には僕の美学がある」 青山敏弘、初のW杯で痛感した経験値不足と貫いた“広島愛”
長谷部とボランチコンビを組むも「落ち着いた空気を作れなかった」
その言葉はもちろん聞こえていたが、彼の身体の中に染みついていたのは、チャレンジ。佐藤寿人の動き出しに合わせて、一発の勝負パスで局面を打開し、得点につなげることが彼のストロングだ。そして、前線には大久保にしても岡崎にしても、ストライカーらしい動き出しを得意とする選手がいる。実際、ザンビア戦では、大久保のアクションに合わせてパスを出したことが得点につながった。
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「やっぱり(前の)動き出しには反応してしまう。自分の良さを出したかったし、そこを狙ってしまった。それは自分だけでなく、チームとしてもそう。縦に速く、裏を狙う。それに自分も合わせてしまったし、落ち着いた空気を作れなかった」
ただ、それでも日本は前半アディショナルタイム、本田のクロスに岡崎が合わせて同点。いい雰囲気でハーフタイムを迎えた。
「実際、前半はチャンスも作っていましたからね。このやり方はリスクもあったけれど、いける。そう感じていました」
後半、コロンビアはこの大会で得点王になるハメス・ロドリゲスを投入。そしてゲームの雰囲気はガラリと変わった。
後半10分、ハメスのパスからジャクソン・マルティネスに決められてしまう。ラストパスの直前、相手10番に青山はアタックにいったが、難なくかわされて決定的なパスを出させてしまった。そしてその7分後、交代直前にワンタッチパスで長谷部にボールを届け、香川の決定的シュートを演出したあとで、青山は交代。彼のW杯は終わった。
「(ハメス・ロドリゲスに対しては)どうしても、受け身になってしまった。だから彼にボールを持たせる前に、どうにかしないといけなかったんですけどね。ただ、プレッシャーをかけると叩かれ、(プレスに)行ききれないとスピードに乗らせてしまう。それは今まで、経験したことのないレベルでした」
失点シーンでも、彼は自分を責めた。
「もっとやれることはあったと、今は思います。ただ、ディフェンスのところは自分の課題であり、もっとも足りない部分。あのシーンでも自分が(最終ラインに吸収されずに)ズルズルと下がることなくやれていれば、もっと最終ラインも上げられていた。あのシーンにしても、もっと前でディフェンスできていれば(違っていた)。ただ、なんだろう、ハメスにそうさせられていたのかもしれないですね。彼はシンプルに速かったし、独特の間合いもあった。スペースに入ってくる鋭さも、パワーにしても、自分は経験したことがないレベルでしたね。あの時、自分も止めようとして行ったんですけど、一発では止まらない」
中野和也
なかの・かずや/1962年生まれ、長崎県出身。広島大学経済学部卒業後、株式会社リクルート中国支社・株式会社中四国リクルート企画で各種情報誌の制作・編集、求人広告の作成などに関わる。1994年からフリー、翌95年よりサンフレッチェ広島の取材を開始。以降、各種媒体でサンフレッチェ広島に関するリポート・コラムなどを執筆。2000年、サンフレッチェ広島オフィシャルマガジン『紫熊倶楽部』を創刊。著作に『サンフレッチェ情熱史』『戦う、勝つ、生きる 4年で3度のJ制覇。サンフレッチェ広島、奇跡の真相』(ともにソル・メディア)。