【W杯|この試合この1枚】W杯初戦でメッシの瞳が捉えた先 スタンドの歓声を打ち消す“静”の姿
グループC第1節アルゼンチン対サウジアラビア W杯制覇を目指すメッシの瞬間を捉える
現代のサッカー史を牽引してきた、アルゼンチンの至宝もついに集大成のときを迎えている。世界チャンピオンを決める熱狂のピッチへと入場してきたリオネル・メッシにカメラの望遠レンズを向ける。国歌演奏からチーム集合写真までのあいだメッシは何度か大きく深呼吸をした。
大舞台の経験は計り知れないほど豊富なはずであるのに、メッシがファインダーのなかで緊張した面持ちをするとは少し予想外だった。それでもサウジアラビアの選手たちと健闘を誓い合う握手の場面では笑顔を作り貫禄を見せる。
アルゼンチン史上最高の天才と謡われたディエゴ・マラドーナと比較されるまでの存在となったメッシも、おそらくワールドカップ(W杯)優勝を賭けた戦いは今回が最後となるだろう。彼に欠けている唯一と言っていいW杯制覇は悲願であるに違いない。
その思いはプレーにはっきりと表れていた。以前ほど単独でのドリブル突破は減った印象だが、トラップ、パスの基本技術の高さはまったく衰えを見せていない。ペナルティーキック(PK)から先制点も挙げた。
メッシの印象は“静”だ。例えば同じ南米人のネイマールが“動”であるのとは対照的である。そして、このサウジアラビア戦のボールアウトになった一場面でファインダーに捉えたメッシはスタンドの歓声を打ち消すように“静”の世界の中にあった。このときメッシが視線の先に見たものはなにか。最後になるかもしれないワールドカップの世界を心に焼き付けていたのかもしれない。
そして、ゴール裏から見てきたカメラマンとしても、エースナンバー10番が似合う男のワールドカップで撮影する機会はカウントダウンを迎えている。
FOOTBALL ZONE特派・徳原隆元 / Takamoto Tokuhara
とくはら・たかもと/1970年東京生まれ。22歳の時からブラジルサッカーを取材。現在も日本国内、海外で“サッカーのある場面”を撮影している。好きな選手はミッシェル・プラティニとパウロ・ロベルト・ファルカン。1980年代の単純にサッカーの上手い選手が当たり前のようにピッチで輝けた時代のサッカーが今も好き。日本スポーツプレス協会、国際スポーツプレス協会会員。