【W杯】アジア勢、なぜ連敗スタート? 例外的チームとアジアで最もパワフルなチームが“弱点”ゆえに完敗

イラン代表(写真左)とカタール代表は黒星スタート【写真:ロイター】
イラン代表(写真左)とカタール代表は黒星スタート【写真:ロイター】

【識者コラム】カタールがエクアドルに0-2、イランがイングランドに2-6で敗戦

 カタール・ワールドカップ(W杯)が始まった。開幕戦は開催国カタール代表がエクアドル代表と対戦して0-2と敗れ、2日目はイラン代表がイングランド代表に2-6と大敗。アジア勢は連敗スタートになってしまった。

 カタールとイランは同じアジアではあるがチームカラーは対照的だ。

 カタールは全員が自国リーグでプレーしていて、その多くは強豪のアル・サッドに所属している。さらに国策的育成機関であるアスパイア・アカデミーの出身者も多い。長期計画で強化してきた例外的な代表チームだ。大半の代表チームは選手がバラバラのクラブに所属していて外国のリーグでプレーしている場合も多い。フランス代表、ベルギー代表、ブラジル代表、アルゼンチン代表といった強豪国もそうなっている。少ない強化日程でチームをまとめる難しさがあるのは今や代表チームの宿命といっていい。

 カタールは育成段階からスペイン方式のプレースタイルを志向していて、フェリックス・サンチェス監督もスペイン人だ。ポジショナルプレーを浸透させ、洗練されたパスワークを特徴としている。育成段階から統一された指導方針、互いをよく知っているメンバー構成でコンビネーションはいい。代表チームの強化としては非常に恵まれた環境にあるわけだ。

 ただ、それゆえの弱点もある。強度不足だ。欧州のトップリーグでプレーしている選手なら、テンポの早さや球際の強さなど、強度の高い試合を日常的に経験している。ところが、カタールの代表選手は国内リーグが主戦場で強豪チームに選手が集まっているのではなかなか強度の高いゲームを経験できない。もちろん国際試合は数多く経験しているが、開幕戦で対戦したエクアドルに比べると切り替えの速さ、寄せの速さ、球際の強さで見劣りしていた。

 テクニカルなカタールとは対照的に、イランはアジアでは最もパワフルなチームだ。

 運動量やスピードはともかく、球際の強さなど強度はある。欧州リーグでプレーしている選手も多く、イングランド戦でもパワーで負けている印象はなかった。ところが、イランにはテクニックが足りない。自陣からの組み立てがほとんどできず、前線はそれなりに強力なのだがそこまでボールを運べない。ボールポゼッションが大差になったのはイングランドのキープ力もさることながら、イランが簡単にボールを失いすぎていたからだ。

 アジアではそれぞれの特徴を生かして強いカタール、イランだが、W杯の舞台では弱点ゆえに完敗を喫することになった。

(西部謙司 / Kenji Nishibe)

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西部謙司

にしべ・けんじ/1962年生まれ、東京都出身。サッカー専門誌の編集記者を経て、2002年からフリーランスとして活動。1995年から98年までパリに在住し、欧州サッカーを中心に取材した。戦術分析に定評があり、『サッカー日本代表戦術アナライズ』(カンゼン)、『戦術リストランテ』(ソル・メディア)など著書多数。またJリーグでは長年ジェフユナイテッド千葉を追っており、ウェブマガジン『犬の生活SUPER』(https://www.targma.jp/nishibemag/)を配信している。

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