日本代表にとっては「なんとも怖い」 ドイツ代表がW杯で猛威?…復調ムード促すバイエルンとの優れた“相互作用”
カタールW杯へ有利に? フリック監督がバイエルン時代に“経験済み”の成功体験
記者会見でもその点についての質問があった。9月の代表戦ではバイエルン勢が不調だったことが心配の種になるという論調が強かったが、その後、10月から11月にかけて完全に復調。代表でも主軸を務める彼らのコンディションもパフォーマンスも素晴らしいところまで上がっているし、少し負傷を抱えるベテランFWトーマス・ミュラーはナーゲルスマンから「ワールドカップのために」と特別調整の機会ももらえている。
フリック監督「バイエルン勢はドイツ代表の一部だ。彼らだけが代表ではない。ドイツ代表全員で戦うことが大切だ」
監督としてそう強調する。代表全体の雰囲気を考えたらそれは正しいアプローチだ。ただ、そうはいっても主軸となる選手たちが調子を上げてきているのは間違いなく喜ばしいことだろう。準備期間がほとんどない今回のW杯において、主力選手のコンディションとパフォーマンスは大会の成績を左右する非常に決定的な要素となるはずだからだ。
ほかのところでもバイエルンでの体験がドイツ代表の助けになるかもしれない。どの国の監督にとっても未体験が多いのが今大会だ。最適な準備、調整をどうしたらいいのかは比較対象がほとんどないので極めて難しい。
ただフリックには参考になりそうな体験がある。20年にバイエルン監督として優勝したCL決勝トーナメントがそうだ。コロナ禍で急遽UEFAは準々決勝以降の全試合をリスボン(ポルトガル)で開催し、それぞれ一発勝負のトーナメント形式へと変更されて開催。さまざまな戸惑いがあるなかでフリックはリーグ終了後に少しの準備期間でトーナメントモードに切り替えて、見事優勝へと導いた。
実際に選手をメンタル的、フィジカル的、戦術的にまとめ上げる成功体験があるというのは、対戦国にとってはなんとも怖い。バイエルンとフリックの融合パワーでどこまでW杯へ向けて仕上げてくるだろうか。
(中野吉之伴 / Kichinosuke Nakano)
中野吉之伴
なかの・きちのすけ/1977年生まれ。ドイツ・フライブルク在住のサッカー育成指導者。グラスルーツの育成エキスパートになるべく渡独し、ドイツサッカー協会公認A級ライセンス(UEFA-Aレベル)所得。SCフライブルクU-15で研修を積み、地域に密着したドイツのさまざまなサッカークラブで20年以上の育成・指導者キャリアを持つ。育成・指導者関連の記事を多数執筆するほか、ブンデスリーガをはじめ周辺諸国への現地取材を精力的に行っている。著書『ドイツの子どもは審判なしでサッカーをする』(ナツメ社)、『世界王者ドイツ年代別トレーニングの教科書』(カンゼン)。