日本代表にとっては「なんとも怖い」 ドイツ代表がW杯で猛威?…復調ムード促すバイエルンとの優れた“相互作用”
【ドイツ発コラム】見逃せないドイツ代表とバイエルン・ミュンヘンの関係性
カタール・ワールドカップ(W杯)へ向けたドイツ代表の最終メンバー発表記者会見後に、ハンジ・フリック監督や代表スタッフ関係者と少し雑談ができる機会が設けられていた。フリック監督はジュースの入ったコップ片手に数人のドイツ人記者に囲まれながら和やかに話を楽しんでいる。
ふと隣に立っていた記者からこんな質問をぶつけられていた。
「今大会の優勝候補を挙げるとしたらどこになると思いますか? ドイツを除いて」
興味深い質問だ。みんな耳を傾けている。ちょっと間を取ってからフリックは答えた。
「バイエルン」
周りのドイツ人記者はその機転の利いた答えに笑った。フリックも笑っている。でも、ひょっとしたらそれは本音だったのかもしれない。
ドイツ代表とバイエルン・ミュンヘンの関係性は深い。絶対王者で主軸としてプレーする選手は同時にドイツ代表にとってもかけがえのない存在となることが極めて多い。実際に選手のコンディションやパフォーマンスを効果的に上げていくうえで、優れた相互作用がよく見られているのだ。
例えば2020年から21年にかけて、ドイツ代表は思うような戦績を挙げられずに苦しんでいた時期があった。20年11月にはUEFAネーションズリーグでスペイン代表に0-6という89年ぶりとなる歴史的な大敗を喫し、21年3月にはW杯予選で“伏兵”北マケドニア代表に1-2で敗れた。ドイツメディアからの風当たりも強くなるばかり。
そんな時、バイエルンのサッカーが大きな支えとなった。20年のUEFAチャンピオンズリーグ(CL)で優勝を果たしたほか、1年間で6冠を達成。当時バイエルン監督をしていたのが現代表監督のフリックだ。勇敢で積極的にダイナミックに攻守両面で相手を凌駕していくサッカーを要求し、選手のパフォーマンスを大きく引き上げるうえで大きな役割を担っていた。
反対のパターンもある。昨シーズンからバイエルン監督に就任したのがユリアン・ナーゲルスマン。33歳の若さでドイツ王者の指揮官になるというので、世間からの注目は否応なしにも集まる。ナーゲルスマンは自身のアイデアを反映させようとさまざまなチャレンジをしたが、そのすべてがうまくハマったわけではない。シーズン途中にはチームとしてのバランスを崩し、選手の地力で勝ててはいるものの、チームとして充実したプレーができていたかというと多くの識者、ファンに疑問を抱かれていた時期があった。
そんな時、助けとなったのがドイツ代表だ。ヨアヒム・レーブ監督の後任として代表監督になったフリックのもと、バイエルンの代表選手たちは“らしさ”を取り戻すきっかけを掴んだ。
そうかと思うと、フリックもバイエルンに助けられている。今年9月の代表ウィークではコンディションもパフォーマンスも散々だったドイツ代表だが、そんななかバイエルンは躍動感のある試合の連続で公式戦10連勝という最高の流れでW杯への中断期に入った。これはドイツ代表にとって大きなメリットになる。
中野吉之伴
なかの・きちのすけ/1977年生まれ。ドイツ・フライブルク在住のサッカー育成指導者。グラスルーツの育成エキスパートになるべく渡独し、ドイツサッカー協会公認A級ライセンス(UEFA-Aレベル)所得。SCフライブルクU-15で研修を積み、地域に密着したドイツのさまざまなサッカークラブで20年以上の育成・指導者キャリアを持つ。育成・指導者関連の記事を多数執筆するほか、ブンデスリーガをはじめ周辺諸国への現地取材を精力的に行っている。著書『ドイツの子どもは審判なしでサッカーをする』(ナツメ社)、『世界王者ドイツ年代別トレーニングの教科書』(カンゼン)。