元日本代表GK楢﨑正剛氏の視点 メンバー選考は「A代表と五輪代表を兼務した監督ならではの選考」

楢﨑正剛氏がメンバー選考に見解【写真:ロイター】
楢﨑正剛氏がメンバー選考に見解【写真:ロイター】

【専門家の目|楢﨑正剛】メンバー発表から読み解く日本代表の世代交代

 11月1日、カタール・ワールドカップ(W杯)に臨む日本代表26人が発表された。ビッグサプライズこそなかったものの、26人中19人が初めて夢舞台に立つフレッシュな人選になったなか、1998年フランス大会から4大会連続で日の丸を背負った元日本代表GK楢﨑正剛氏が経験談を交えながらこう見解を示す。

「誰もが目指す大きな大会なので、自然と気持ちが高揚してしまうことはあると思います。W杯経験者は比較的落ち着いて振る舞えるメリットがありますが、一方で、責任感が強くなりすぎてプレッシャーを感じてしまう面もあるかもしれません。反対に、初出場の選手は森保一監督が話していたように野心を持って思い切ったプレーができるかもしれない。どちらにも一長一短あるので、経験がある選手を多く選ぶことがすべて正しいとは一概に言い切れません」

 4大会連続の選出となった川島永嗣(ストラスブール)や長友佑都(FC東京)、3大会連続の吉田麻也(シャルケ)や酒井宏樹(浦和レッズ)には、プレー面だけでなく精神的支柱としての役割も期待される。楢﨑氏は彼らへ期待を寄せつつも、4年周期で開催されるW杯に合わせるように日本代表が新たなフェーズを迎えていると指摘する。

「前回のロシア大会は23人中11人がW杯経験者でしたが、あれから4年間で1つのサイクルが終わった印象は否めません。新たな世代が台頭し、多くの選手は今大会だけでなく4年後も中心選手としてプレーできる年齢です。そこに経験があって、なおかつ現在も一線級でプレーしている実力者がミックスされたのが今大会に臨む日本代表だと思います」

 新たな世代とは、昨夏に開催された東京五輪に出場した面々を指すのだろう。26人中10人(※オーバーエイジの3選手を除く)が自国開催の五輪を経験し、順調にステップアップを果たした。

 もっとも「五輪経由ワールドカップ行き」は、最近になって生まれた標語ではない。楢﨑氏も現役時代に似たようなシチュエーションに身を置いた経験がある。

「若い選手が五輪を経由したのではなく、もともと1つのグループに2つのカテゴリーがあったという見方が正しいと思います。年齢制限のある大会に若い選手が出場し、それが終わったから全員がA代表としてしのぎを削る。A代表と五輪を兼務していた(フィリップ)トルシエ監督が率いていた時代と似ています。当時は2000年のシドニー五輪が終わってから本格的に下の世代と合流しましたが、目指している方向性は同じだったので違和感はありませんでした。今回は森保監督がA代表と五輪代表を兼任したメリットを最大限に生かしたメンバー選考になったのではないでしょうか」

 新陳代謝を繰り返し、日本代表は強くなっていく。4年の年月をかけて育ってきた森保ジャパンは、カタールW杯を収穫期にできるだろうか。

[プロフィール]
楢﨑正剛/1976年4月15日生まれ、奈良県出身。1995年に奈良育英高校から横浜フリューゲルスに加入。ルーキーながら正GKの座を射止めると、翌年にJリーグベストイレブンに初選出された。98年シーズン限りでの横浜フリューゲルス消滅が決まった後、99年に名古屋グランパスエイトへ移籍。10年には、初のJ1リーグ優勝を経験し、GK初のMVPに輝いた。日本代表としても活躍し、国際大会では2000年のシドニー五輪(OA枠)、02年日韓W杯などに出場。19年1月に現役引退を発表し、現在は名古屋の「クラブスペシャルフェロー」に加え、「アカデミーダイレクター補佐」および「アカデミーGKコーチ」を兼任する。

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藤井雅彦

ふじい・まさひこ/1983年生まれ、神奈川県出身。日本ジャーナリスト専門学校在学中からボランティア形式でサッカー業界に携わり、卒業後にフリーランスとして活動開始。サッカー専門新聞『EL GOLAZO』創刊号から寄稿し、ドイツW杯取材を経て2006年から横浜F・マリノス担当に。12年からはウェブマガジン『ザ・ヨコハマ・エクスプレス』(https://www.targma.jp/yokohama-ex/)の責任編集として密着取材を続けている。著書に『横浜F・マリノス 変革のトリコロール秘史』、構成に『中村俊輔式 サッカー観戦術』『サッカー・J2論/松井大輔』『ゴールへの道は自分自身で切り拓くものだ/山瀬功治』(発行はすべてワニブックス)がある。

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