激闘を終えたあとのロッカー室は「負けている雰囲気」　想像を絶する重圧乗り越え掴んだ切符

　2002年、自国開催となる日韓W杯を前に初出場を決めたフランス大会。想像を絶する重圧があった。それが最も表れていたのが試合後のロッカールーム、そして宿舎に帰ったあとだった。

「試合後、ロッカールームでは負けている雰囲気だった。みんな疲れ切っていて、喜んでいられない。（最終予選は）本当に戦争だった。みんなうなだれて、はぁ……となって。岡田さんなんか、僕見たことなかったですけど、バスルームでタバコ吸っていて。ホッとしたんじゃないんですかね。岡田さんもすごい覚悟でやられていたから。僕、『デビューしちゃったんですか』って聞いたんですよ。バスの中も静かだったし、ホテル帰っても岡田さんが『本当にこの状況から諦めずに君たち凄い。シャンパン飲もう』と言って『パン！』とやったけど、みんな部屋に帰っちゃった。本当にそんな感じだった。びっくりするぐらい。魂抜かれたように疲れ切ってホッとした。家族に会える、と。昔は家族いる家にはパトカーが止まっていたからね」

　過酷な道のりだった。97年9月からスタートしたアジア最終予選で、日本は“宿敵”韓国に1-2で敗れるなど4試合を終えて1勝2分1敗と低迷。ここで加茂周監督が更迭され、ヘッドコーチだった岡田武史氏がチームを引き継ぐこととなった。だが、その後も波に乗れず、国立競技場で行われた第6節UAE戦を1-1で引き分けると、サポーターが選手バスを囲む騒動となった。そのなかでも、“ターニングポイント”は、1勝2分1敗と苦戦したなかで加茂周監督が解任され、コーチから昇格した岡田監督にバトンが渡った10月11日の敵地ウズベキスタン戦だったという。0-1で迎えた後半アディショナルタイムにFW呂比須ワグナーが決め、1-1の引き分けに持ち込み、首の皮1枚がつながった。

「（ウズベキスタン戦に向けて）岡田さんが（ここまでの成績は）加茂さんだけのせいじゃないから、ここから乗り越えて行こうという雰囲気だった。でも引き分けちゃって。雰囲気は悪かった。今でもすごく覚えているけど、控室に帰ったら全員泣き崩れた。『俺らはもう無理だ』みたいな。自力（での出場権獲得）がなくなったので。それを見て、岡田さんは、スタッフだけがこんな重圧に耐えているんじゃなくて、こいつらこんな思いで予選戦っていたのかというのを知って、最後までこいつらとやる、と覚悟を決めたと後から聞いた。当時、（岡田監督は）41歳ですよ。その後、奥様に電話かけられて『もしW杯決められなかったら日本に帰れないからその時は別れてくれ。実家に帰れ、危ないから』と話されたと聞いた。すごいな、と思って。後から考えればターニングポイントだったと言えるかもしれない。絶体絶命でしたけどね」