広島はなぜ“9度目の正直”でタイトルを獲得できたのか 優勝を呼んだスキッベ監督の哲学とクラブの“絶妙な相性”
【J番記者コラム】“ホワイトな環境”に隠された各選手の意識の高さ
ルヴァンカップ優勝からチームは3日間のオフ。そして、10月26日からトレーニングを再開し、バチバチと身体をぶつけ合う試合形式など、2時間近くの時間を使ったハードな内容でトレーニングを終了した。そのスケジュールを、改めて考えてみた。
もう慣れてしまった試合後の連続オフ。天皇杯のあとも2日間、チームは休みだった。連休はもはや当たり前であり、3日間連続のオフも珍しいことではない。リカバリートレーニングもなければ、オフ明けの「身体を起こす」目的のフィジカルトレーニングもない。練習場での練習は常にハードで、気の休まる暇もないが、ただ走るとか、ただ身体を動かすといった、ボールを使わない練習に費やす時間は短い。
守護神の大迫敬介は、「Jリーグで最も休みが多いチーム。一番の“ホワイト”な環境ですね」と笑った。ホワイトとはもちろん「ブラック企業」と呼ばれる劣悪な労働環境とは真逆にあるということだが、確かにそのとおり。ただ、それは一方で、「高度なプロ意識」が要求される。休みの間に何をするべきか、どういう準備をしておくべきか。その意識の高さがなければ、トレーニングで怪我をする。
今季の広島は、練習中に怪我を負った例はほとんどない。川村拓夢が練習中に左膝を負傷したが、それは接触プレーが原因であり、準備不足とはわけが違う。一方で、練習に対して全力を尽くさなかったり、気持ちを抜いたようなプレーも見たことがない。そういう選手は、ミヒャエル・スキッベ監督の組む練習メニューについていけなくなる。
広島の選手たちはずっと、生真面目だと言われてきた。練習に遅刻してくる選手などはほぼおらず、ほとんどが練習開始のかなり前にクラブハウスに来て準備を行い、トレーニングのあとも自分でケアをしたり、筋トレをしたり。サッカーを中心に生活をデザインすることが、習慣化している。それは森﨑兄弟(和幸・浩司)や佐藤寿人、駒野友一(現FC今治)が主力になりつつあった時代から全体の空気感として醸成され、今や広島のコモンセンスになっている。2002年12月に就任した小野剛監督(当時)の「24時間をサッカーのためにデザインしろ」という指導が、今もチームに生きていると言っていい。
中野和也
なかの・かずや/1962年生まれ、長崎県出身。広島大学経済学部卒業後、株式会社リクルート中国支社・株式会社中四国リクルート企画で各種情報誌の制作・編集、求人広告の作成などに関わる。1994年からフリー、翌95年よりサンフレッチェ広島の取材を開始。以降、各種媒体でサンフレッチェ広島に関するリポート・コラムなどを執筆。2000年、サンフレッチェ広島オフィシャルマガジン『紫熊倶楽部』を創刊。著作に『サンフレッチェ情熱史』『戦う、勝つ、生きる 4年で3度のJ制覇。サンフレッチェ広島、奇跡の真相』(ともにソル・メディア)。