CL歴史的一撃のフランクフルト鎌田大地、ボランチで見せた“成長の幅” 「ここはドイツ…そういうプレーが評価される国」
【ドイツ発コラム】クラブCLホーム初勝利、阿吽の呼吸で生まれた鎌田のゴール
日本代表MF鎌田大地と元日本代表キャプテンMF長谷部誠が属するフランクフルトは、UEFAチャンピオンズリーグ(CL)のグループステージ第5節でマルセイユを2-1で下し、クラブ史上初めてCLホーム勝利を祝った。超満員のファンが何度も何度もクラブの名前を誇らしげに叫ぶ。
口火を切ったのは鎌田だ。開始5分、フランクフルトは左サイドからの攻撃で左センターバック(CB)DFエヴァン・ヌディカがオーバーラップでボールを持ち運ぶと、マルセイユの中盤が守備組織を整える前にぽっかりできたセンタースペースへグラウンダーのパスを送った。
デンマーク代表FWイェスパー・リンドストロームは相手DFと並走しながら、うしろから駆け寄ってくる味方選手を感じてこのパスをスルー。スルスルと上がってきていた鎌田がこのボールを受け、スピードを緩めぬまま見事にコントロールすると、必死で守ろうとする相手DFをしっかりとブロックしながら、右足で正確にゴール右へと流し込んだ。
これがフランクフルトCLホームでの初ゴール。両手を広げて走り出す鎌田を仲間が追いかけ、幸先のいいゴールにファンは抱き合って喜び合う。
ドイツ誌「キッカー」はこのゴールシーンを取り上げ、「サッカー選手として学ぶことができないこともある。CLという舞台であれほどの瞬時の反応スピードと予見能力は素晴らしい」と、それぞれの選手が見せたひらめきと実践力を称賛していたが、このゴールにしても何もないところから生まれたものではない。お互いが何度も一緒にプレーをするなかで作り上げてきたものがあるからこそだ。
鎌田は試合後のミックスゾーンでそのことを口にしていた。
「彼(リンドストローム)とは去年からやっている。去年は逆にああいうボールを彼が触って、自分がどフリーでっていうチャンスが結構あった。それは去年から話をしていたので、今日も『(うしろにいるのは)分かってた』って言ってた」
確かな信頼関係がそこにある。スイス代表ジブリル・ソウと2ボランチでスタメン出場した鎌田はビルドアップの局面では右サイドワイドに開いてパスを引き出したり、中盤のスペースに顔を出して1~2タッチでどんどんパスを展開したりと、見事なゲームメイクぶりを見せる。味方からのボールもどんどん集まる。鎌田を経由してリズムが作られ、攻撃の起点が生まれていく。そうやってバランスを取るだけではなく、機を見て攻め上がりゴール前にも顔を出す。相手チームからすれば非常に捕まえにくい動きだ。
中野吉之伴
なかの・きちのすけ/1977年生まれ。ドイツ・フライブルク在住のサッカー育成指導者。グラスルーツの育成エキスパートになるべく渡独し、ドイツサッカー協会公認A級ライセンス(UEFA-Aレベル)所得。SCフライブルクU-15で研修を積み、地域に密着したドイツのさまざまなサッカークラブで20年以上の育成・指導者キャリアを持つ。育成・指導者関連の記事を多数執筆するほか、ブンデスリーガをはじめ周辺諸国への現地取材を精力的に行っている。著書『ドイツの子どもは審判なしでサッカーをする』(ナツメ社)、『世界王者ドイツ年代別トレーニングの教科書』(カンゼン)。