“ACL出場権”の望ましい形 真の代表クラブを選ぶならJ1のトップ4が最もフェア
ACL出場権は天皇杯ではなく、参加資格がJ1に限られたルヴァンカップで良い
確かにプロ化以降底上げが進み、カテゴリーを隔てても混戦が続くJリーグの現況は、当時のイングランドと似ている。ジャイアントキリングという言葉に象徴されるように、かつてFAカップでは下剋上が相次いだ。だがプレミアリーグ創設やボスマン判決などを転機に様相は一変。イングランドを代表してチャンピオンズリーグへ参戦していくチームも絞られ、その経験値が優位性の要因にもなっている。
やはり本来ACLには、日本を代表する力を備えたチームが参加していくのが望ましい。
しかし今回J2で18位の甲府が優勝したことを考えれば、アマチュアでも瞬間的に勢いを得た大学チームなどが戴冠の可能性も否定はできない。そして甲府の戦力補強が難しいように、もし大学の場合なら天皇杯に勝つメンバーを揃えた翌年にはチームの劇変が避けられない。
一方で参加資格を得た甲府も、諸手を挙げて喜んでいる状況ではないはずだ。長丁場で過密なJ2を戦いながら、本拠地を離れてJ1の上位クラブにとっても大きな負担になるACLにも挑むわけだから、どこまで戦力を維持しながらコンスタントなパフォーマンスを発揮できるのか、とても楽観視は出来ない。
すでに天皇杯には、全国のアマチュアチームがプロと戦える可能性を追求できる夢がある。逆にプロ側にとってはモチベーションを高めるのが難しい大会なのかもしれないが、それだけで十分に価値は担保されているはずだ。例えば五輪や世界選手権などの代表選手を決める場合、記録を争う競技なら参加標準記録があるし、ランキング上位でなければ出場できない種目もある。つまり最終選考会に臨む以前に、一定水準以上の競技能力を問うハードルが用意されている。
サッカー界でも真のACLへの代表クラブを選出するなら、シーズンを通してJ1を戦い抜いた上位4チームを送り込むのが最もフェアだ。しかしどうしてもカップ戦を盛り上げるために付加価値を折り込みたいなら、せめてACLへの切符を渡すのは、天皇杯ではなく参加資格がJ1に限られたルヴァンカップで良いと思う。
(加部 究 / Kiwamu Kabe)
加部 究
かべ・きわむ/1958年生まれ。大学卒業後、スポーツ新聞社に勤めるが86年メキシコW杯を観戦するために3年で退社。その後フリーランスのスポーツライターに転身し、W杯は7回現地取材した。育成年代にも造詣が深く、多くの指導者と親交が深い。指導者、選手ら約150人にロングインタビューを実施。長男は元Jリーガーの加部未蘭。最近選手主体のボトムアップ方式で部活に取り組む堀越高校サッカー部のノンフィクション『毎日の部活が高校生活一番の宝物』(竹書房)を上梓。『日本サッカー戦記~青銅の時代から新世紀へ』『サッカー通訳戦記』『それでも「美談」になる高校サッカーの非常識』(いずれもカンゼン)、『大和魂のモダンサッカー』『サッカー移民』(ともに双葉社)、『祝祭』(小学館文庫)など著書多数。