「思い出はたくさんある」 今季限りで引退の中村俊輔を元主審・家本氏が回想、印象に残った2試合とは?
ピッチで交わされた何気ない会話が1つの思い出に
もう1つのエピソードは、2016年のJ1リーグ・セカンドステージ(当時は2ステージ制)第3節横浜FM対ヴィッセル神戸(3-2)の一戦。後半40分のペナルティーキック(PK)のシーンだという。この時、キッカーを務めたのが中村だった。
家本氏は「中村選手が蹴る前に味方選手が明らかにエリアに侵入して、その後放ったシュートがゴールインしました」と当時の状況を説明。「競技規則上、ゴールは認められずやり直しなので『中村さんごめんなさい。仲間の方が入られたので、もう一回、やり直しです』」と笑顔で声をかけたという。
家本氏の言葉に対し中村も「絶対やり直しすると思った。そういうところあまり厳しくしないでよ」と応答。やり直しとなったPKは、再びキッカーを務めた中村がきっちりと沈めた。「そんな軽快なやり取りをした記憶と、何があっても常に冷静でチームやサポーターのために最高のパフォーマンスをする素晴らしい選手ということを実感したことで、すごく印象に残っています」とピッチ上のやりとりを明かした。
ここまで中村との思い出を振り返った家本氏は、「試合で会うと親しみ込めていつも“いえもっちゃん”と呼んでくれたり、ある時には『今日はどんなレフェリングプランなの? 要注意選手とかちゃんと把握してるの?』みたいな質問を投げかけてくれたりしました。いつも冷静で知性にあふれていて、心の底から尊敬している選手です」と特別な思いを口にしていた。
家本政明
いえもと・まさあき/1973年生まれ、広島県出身。同志社大学卒業後の96年にJリーグの京都パープルサンガ(現京都)に入社し、運営業務にも携わり、1級審判員を取得。2002年からJ2、04年からJ1で主審を務め、05年から日本サッカー協会のスペシャルレフェリー(現プロフェッショナルレフェリー)となった。10年に日本人初の英国ウェンブリー・スタジアムで試合を担当。J1通算338試合、J2通算176試合、J3通算2試合、リーグカップ通算62試合を担当。主審として国際試合100試合以上、Jリーグは歴代最多の516試合を担当。21年12月4日に行われたJ1第38節の横浜FM対川崎戦で勇退し、現在サッカーの魅力向上のため幅広く活動を行っている。