エル・クラシコで目を引いたレアル2点目のミドルシュート Jリーグの名手も苦労して習得したGK泣かせの高等技術とは?
【識者コラム】レアルがバルセロナに3-1勝利、バルベルデが見せた見事なシュート技術
エル・クラシコはホームのレアル・マドリードが3-1でFCバルセロナを下して今季無敗をキープした。
前半12分にヴィニシウス・ジュニオールの突破からカリム・ベンゼマが先制。同35分にフェデリコ・バルベルデが追加点。バルセロナの反撃をフェラン・トーレスの1点に抑え、ロスタイムにロドリゴのPK(ペナルティーキック)で3-1、レアルの快勝となった。
内容的にはほぼ互角。随所に高度なプレーがあり、クラシコらしい見応えのあるゲームだったが、バルベルデの2点目のミドルシュートが目を引いた。
攻め込みの形としてはカウンターで、ペナルティーエリア外のほぼ正面でパスを受けたバルベルデがコントロールしてから狙い定めて左隅へ低いシュートを決めている。バルベルデのキックはインサイドで置くような蹴り方だった。しかし球速は素晴らしく速く、名手マルク=アンドレ・テア・シュテーゲンのセーブも間に合わなかった。
インサイドキックでこのようなスピードボールを蹴るようになったのは、1990年代の後半あたりからだと思う。ボールの改良が大きな要因だろう。それ以前は強いシュートを打とうと思ったらインステップキックでなければ難しかった。一部の例外的な選手を除けば、ミドルレンジのシュートの名手はインステップ系のキックの名手だった。
その後、ボールの反発力が強くなりインサイドでもボールの中心を叩けば失速しなくなった。バルベルデのシュートも少し縦回転がかかっていてボールが沈んでいるけれども、それで失速はしていない。長い足を大きく振ってはいるが、フォロースルーはほとんどなくてボールに体重を乗せて蹴っている。芯を強く叩けばボールは飛んでくれるのだ。
Jリーグ最多得点者である大久保嘉人はミドルシュートの名手でもあった。大久保はインサイドキックではなくインステップに近い蹴り方だが、ボールに真っ直ぐ入っていくアプローチが特徴だった。ボールを正面に置いて真っ直ぐ踏み込んで押し出すように蹴る。これもボールの芯を叩く蹴り方である。そんなに思い切り足は振らず、ボールを手で掴んで投げるようなコントロールが素晴らしかった。同じフォームから左右に蹴り分けができて、しかもブレ球になることも多いのでGKにとっては実に嫌なシュートだったに違いない。真っ直ぐな助走で左右どちらにも蹴り分けられるのは、ボールの中心を正確に叩けるからだ。中心を叩く能力が高いので、中心をほんの少し外す、あるいは中心を蹴る角度を変えることもできたのだろう。
この蹴り方を習得するために、川崎フロンターレ時代には相当練習を積んだという。簡単にできる技術ではないからだが、大久保の話では「怪我をする可能性も高い」というから、そもそも身体が丈夫でないと身に付けられないのかもしれない。
西部謙司
にしべ・けんじ/1962年生まれ、東京都出身。サッカー専門誌の編集記者を経て、2002年からフリーランスとして活動。1995年から98年までパリに在住し、欧州サッカーを中心に取材した。戦術分析に定評があり、『サッカー日本代表戦術アナライズ』(カンゼン)、『戦術リストランテ』(ソル・メディア)など著書多数。またJリーグでは長年ジェフユナイテッド千葉を追っており、ウェブマガジン『犬の生活SUPER』(https://www.targma.jp/nishibemag/)を配信している。