内田篤人、代表続行の決断の裏側 「このまま終われば、何か負け犬のような気がする」
「課題や世界で勝つという夢や目標を下の世代に託すのはどうか」
圧倒的なフィジカルで攻撃を仕掛け、2分間で試合をひっくり返したコートジボワール。ディディエ・ドログバは1人でピッチの空気を変えるほどの存在感があった。数的不利になったギリシャは10人で守り切り、後半ロスタイムの得点でコートジボワールを下して決勝トーナメントに進出した。日本が勝利すれば、グループリーグ突破の可能性があったコロンビア戦は、チームとして全く歯が立たなかった。
しかし、世界クラスの選手と欧州チャンピオンズリーグやブンデスリーガで日常的に対峙している内田の目には、「当たり前のこと」だった。クラブとしてではなく国を背負ったときにも、世界的な選手は同じように力を発揮していた。
「(日本代表の)地力がまだまだと分かって、この大会に臨んだつもりだった。その中でもどうにかして勝っていこうと思ったが、うまくいかず歯がゆい思いでいっぱい。自分たちの望む結果ではなかった。
やっぱり、サッカーで強いと言われる国は引き出しが多い。そりゃ、自分たちのサッカーができれば勝てます。でもこのレベルになると、できないというか、させてもらえないからね。そこでどうするか。強いチームは、自分たちの流れではないときやうまくいかないときに、我慢できるんだよね。
うーん、何だろう。ボールも持てないし、向こうの選手は一発を持っているし。まあ、これが地力じゃないですか。もちろん、技術があって球際で戦えるという前提での話だけど、そこプラス、試合の勝ち方というものを知っている。やっぱり歴史がある国やチームは、勝ち癖があるんだと思う。日本はまだ、その勝ち方を知らないと思った」
コロンビアに敗れたときにはピッチから離れ、ベンチに腰を下ろして涙を流した。肩が震えるほど号泣した。最後かもしれない大舞台で1分け2敗。個人として手応えはあったものの、「DFは勝って初めて評価される」というポリシーからすれば到底、納得できる結果ではなかった。
1度は代表引退を考えた末に望んだW杯。もし望む結果を得られていたら、完全燃焼していたら、その決断は早まったかもしれない。だが今回は、やり残したことも得られなかったものも、あまりに多かった。
「球際での勝負強さ、引き出しの多さ。そういう課題や、世界で勝つという夢や目標を下の世代に託すのはどうか、と。僕らの大会は終わってしまった。自分たちが努力した部分が、報われない結果になって残念だった。それも勝負の世界だから、タラレバがないので仕方ない。
できたこともできなかったことも、相手があってのこと。難しいゲームにしてしまったのは自分たち。まだまだ未熟だった。世界は近付いてきたけどまだまだ広いな、と感じた。日本のサッカーは進歩していると思うし、いろんな選手が海外に行ってやれているということもそう。でも何か、世界は近いけど広いなっていう感覚があります。それは別に、この大会で初めて思ったことじゃなく、ドイツに行ってすぐ思ったことでもあるけど。このまま終われば、何か負け犬のような気がする」
ブラジルから帰国後は10日ほどの休暇を取り、7月9日から静岡県内で大迫勇也と共に自主トレを始めた。W杯期間中、左太ももと比べて右足の筋肉量が20%以上減ってしまったため、今はそれを戻すメニューに取り組んでいる。「きちぃ」などと大声を出しながらも精力的にトレーニングに励む。表情も明るい。
それは今季5年目を迎える欧州で戦い抜くための準備であり、4年後のロシアW杯への再出発を意味する。4年前、どんな状況でも先発になるという目標を持っていた22歳は、26歳になって1つの目標をかなえた。ただ、新たな目標ができた。「チームを勝たせる選手になりたい」。悔しさは形を変えてやってきた。理想の選手像を求め、“日本代表の”内田篤人は再び歩み始める。(サッカーマガジンZONE2014年9月発売号に掲載)
【了】
サッカーマガジンゾーンウェブ編集部●文 text by Soccer Magazine ZONE web
ゲッティイメージズ●写真 photo by Getty Images