長谷部誠のCL好プレーにスタジアム騒然 名手“ケイン封殺”の舞台裏、元ドイツ代表主将も「ワールドクラス」と唸ったベテランの業
「全くびくともしなかった」ケインとのマッチアップで二の足を踏まずにアタック
長谷部は38歳となった今でも、動きに優れている。必要な時に、必要な動きを瞬時に行うことができる。例えばボールをワンタッチで運ぶ距離とボールに追い付くまでの歩幅が非常に明瞭でなめらか。慌ててステップを踏みかえて歩幅を調整したりするしぐさがほとんどない。味方へのパスにも気配りがある。足もとではなく、味方の前足へスッと出してくれるからターンのアクションを省いて次のプレーへ移行することができる。
次の展開を読む能力も相変わらず高い。後半17分にトッテナムがカウンターを仕掛けたシーンだ。右サイドから攻めてくる相手に対応する動きを見せながら、すでに逆サイドへのパスを想定している。だからパスが出た瞬間にはもうターンをして次の状況に対応できている。そして左サイドからのクロスに対しても落下点を正確に抑えていた長谷部がヘディングで競り勝ちクリア。ケインを相手に、だ。
フィジカルコンタクトに対する恐れもまったくない。「当たっても全くびくともしなかった」と振り返るケインが相手でも、二の足を踏まずにアタックし、周りの選手が瞬時にサポートする形が上手くいく。ケインは試合を通していい形でボールをもらう場面がなく、イライラして長谷部を押しのけるシーンさえあった。長谷部はこう振り返った。
「彼(ケイン)のところにボールを当てて、そこからほかの2人がダイレクトに出てくるというのがあった。あそこはとにかく、ボールを取れなくても自分がいかないと。前向かれるのは止めようという話はしていた。それでも何回かやられたので、自分たちより上だなって感じましたけど、まあでも、最終的に点を取られていない。アウェーではもっと大変になると思うので、今日の試合もう少し分析して、チームとしての守り方を遂行したいなと思います」
試合後のミックスゾーンではドイツ人メディアがインタビューに応じる選手皆に「今日の長谷部をどう思うか?」という質問をしていたのが印象的だった。スポーツチャンネル「DAZN」で解説を務めていた元ドイツ代表キャプテンのマティアス・ザマーは「ワールドクラスのパフォーマンス」と敬服し、フランクフルトのキャプテンMFセバスティアン・ローデは「凄いプレーだったね。ハリー・ケインを抑えただけではなくて、ボールを持った時にもトゥータとエヴァンに必要な落ち着きを与えてくれていた。間違いなく僕らの柱だ」と絶大な信頼を口にしていた。そしてそんな答えを地元記者がニコニコしながら聞いている。長谷部の評価は“満場一致”なのだ。
「若いチームでビビらずやるというのはほかの選手にとって影響があると思う。相手がトッテナムだろうが、どこだろうが、そういう部分で引け目を感じることはない」
本人はこんなセリフを躊躇なく口にする。そしてそれに皆が頷いてしまう。眩いばかりの存在感でピッチ上に君臨し、チームを完全にコントロール。長谷部の成長はまだまだ止まっていない。
中野吉之伴
なかの・きちのすけ/1977年生まれ。ドイツ・フライブルク在住のサッカー育成指導者。グラスルーツの育成エキスパートになるべく渡独し、ドイツサッカー協会公認A級ライセンス(UEFA-Aレベル)所得。SCフライブルクU-15で研修を積み、地域に密着したドイツのさまざまなサッカークラブで20年以上の育成・指導者キャリアを持つ。育成・指導者関連の記事を多数執筆するほか、ブンデスリーガをはじめ周辺諸国への現地取材を精力的に行っている。著書『ドイツの子どもは審判なしでサッカーをする』(ナツメ社)、『世界王者ドイツ年代別トレーニングの教科書』(カンゼン)。